『ドライブ・マイ・カー』『ガンニバル』 “世界”を経験した山本晃久のプロデューサー論

映画好きが集まった同好会のような空気感があったアカデミー賞授賞式

ーーただ、山本さんがプロデューサーとして手がけられてきた作品を改めて見てみると、『ドライブ・マイ・カー』をはじめ、『寝ても覚めても』や『スパイの妻〈劇場版〉』など海外で評価されている作品がやっぱり目立ちますよね。

山本:ものすごくありがたいことですね。ただそれもやっぱり、自分たちが面白いと思うもの、自分たちの中にあるストーリーテリングを追求していったことの結果だと思うので。濱口(竜介)さんも黒沢(清)さんも、非常に研究熱心で、映画のことが底抜けに好きだということが、一緒にやっていてもものすごく伝わってくるんです。もちろん技術的な部分もありますが、やはり一番大事なのは、そういう姿勢を持ち続けることだと思いますね。それは実際にアカデミー賞の授賞式に参加してみても思ったことで。

ーーというと?

山本:アカデミー賞をはじめとする海外の映画祭に参加して一番嬉しかったのが、みんな同じだと思えたことだったんです。西島秀俊さんもおっしゃっていましたけど、アカデミー賞授賞式の会場には、本当に映画や映像作品のことが好きな人たちが集まっていて、そこに何か隔たりがあったりするわけではないんだなと。映画好きの人たちがいっぱい集まった同好会のような空気感があって、僕はそれがものすごく居心地が良かったんですよね。そういう人たちが集まった中で、自分たちも背筋を伸ばして、もっと面白い作品を作りたいなと思えたことが大きな成果だったなと思います。

『ドライブ・マイ・カー』©︎2021 『ドライブ・マイ・カー』製作委員会

ーーそういう作品を作っていく中でも、プロデューサーとしてはビジネス的にも成功させないといけないというシビアな側面も必要になってきますよね。

山本:おっしゃる通りです。ただビジネス的な側面も、やっぱり作品あってこそだと思っていて。例えば、映画館に来てもらったりBlu-rayを買ってもらったりみたいなことはもちろん重要なのですが、そのためのロジックを前提に考えてしまうと、本当に大切なものが濁ってしまうと思うんです。だから、企画の段階ではその作品がどう面白いのかをしっかりとプレゼンしていって、実際に作品が作れるようになったら予算のなかで全力で面白いものを作っていく。そして完成した作品の面白さをしっかりと伝えていくという、本当にシンプルな哲学なんですよね。

ーー山本さんはそもそもなぜプロデューサーになろうと思ったんですか?

山本:映画業界で働きたいということはだいぶ昔から思っていました。去年実家に帰って中学時代の段ボールをひっくり返してみたら、中1のときのノートが出てきて、そこに映画の企画書が書いてありましたね(笑)。

ーーそんな早い段階から志しがあったんですね。

山本:まあ企画書というほどちゃんとしたものではないんですけど、「こういう映画を作りたい」みたいなことが書いてあって。小6とか中1の時点で、映画を作る人になりたいと思っていたんですね。

ーー最初からプロデューサー志望だったんですか?

山本:いや、最初は脚本家を目指していたんです。高校を卒業してから日本映画学校に入ったんですけど、校内コンクールで入選させていただいたりもしていて。脚本家になれたらいいなと思っていたんですけど、卒業制作でたまたまプロデューサーの役割をやることになって。学生レベルではあるんですが、そのときに最初から最後まで映画に携われるのはプロデューサーなんだと思ったんですよね。映画学校を卒業してから東宝スタジオで働いていた時期もあったんですが、辞めるときも「もし自分に映画を作る役割があるとしたらプロデューサーかもしれない」と。まあ中学時代から企画を考えるのが好きでしたし、東宝スタジオにいるときも東宝の社内コンペに企画を出したりしていたので、そういう中で確信に変わっていたところがありました。

ーーブレずに一貫していたわけですね。

山本:ただ、もしC&Iに入っていなかったらそうはならなかったかもしれません。C&Iの社長の久保田修さんは僕の師匠でもあるのですが、徹底したプロデューサー論を持っていて、プロデューサーとは何かというところから、脚本作りやキャスティングまで、いろんなことを教えていただいたんです。久保田さんがいたからこそ、プロデューサーの重要性に気づくことができて、プロデューサーの仕事に誇りを持てるようになりました。もちろん辛いこともありましたけど、C&Iに入ってからは一度もブレたことはないですね。

ーーこれまで培ってきたプロデューサーとしてのノウハウが、今後はディズニープラスの作品で発揮されていくことを、大いに期待しています。

山本:ありがとうございます。先ほどから繰り返し申し上げているように、“ストーリーテリング”を大事にしているディズニーという大きな会社だからこそできることがすごくあると思っていて。日本にも、ストーリーテリングに関する優れた才能を持っているクリエイターたちがたくさんいるので、そういった方たちと一緒に面白い作品を作っていけたら、今までに観たことがないようなものが生まれてくると確信しています。なのでそこは本当に楽しみに、期待していただけたらと思っています。

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