『リコリス・リコイル』のダークホース的大ヒットの衝撃 2022年のTVアニメを振り返る
2022年のアニメ事情は、前年にも増してTVアニメの映画化が目立った印象だ。ざっと眺めても『映画「五等分の花嫁」』(5月)、『映画 ゆるキャン△』(7月)、『劇場版 からかい上手の高木さん』(9月)、『私に天使が舞い降りた!プレシャス・フレンズ』(10月)、『劇場版 転生したらスライムだった件 紅蓮の絆編』(11月)など。その中でも8月公開の『ONE PIECE FILM RED』が興行収入187億円を超える大ヒットとなり(2022年12月時点)、アニメを取り巻く話題には事欠かない。では一方の2022年のTVアニメ界はどうだったろうか? 3カ月単位で大きく入れ替わるTVアニメを、それぞれのシーズンの代表作を辿りながら振り返ってみよう。
興行収入約400億円にのぼるメガヒットを記録した『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の期待を受けたTVアニメ『鬼滅の刃 遊郭編』は、兄妹で攻撃を仕掛けてくる強敵相手に、炭治郎ら鬼殺隊が繰り広げる死闘をこれでもかというハイテンションで駆け抜けた。全11話のうち、第1話と最終話は放送時間を拡大した特別枠の放送となり、制作会社ufotableの苦労が偲ばれる密度となっている。最終話のラストには続編「刀鍛冶の里編」の制作も発表され、世界中の鬼滅ファンの興奮はまだまだ続きそうだ。TVアニメ第1期にあたる「竈門炭治郎 立志編」の頃はローカル枠の放送だった『鬼滅の刃』が、ブームの波を受けて全国ネットのフジテレビ系列でも放送されるようになったのは大きなトピックスと言えるだろう。
他に冬アニメの注目作として、『明日ちゃんのセーラー服』と『その着せ替え人形は恋をする』が連続放送されていた1時間枠で、両作の制作会社Clover Worksの美麗な作画から、一部視聴者から“クローバータイム”と呼ばれるほど高品質のアニメを届けてくれたのも忘れられない。
春アニメ『SPY×FAMILY』は、諜報部員の男ロイド、殺し屋の女ヨル、テレパシー能力を持つ娘アーニャの3人が、自分の正体を隠しながら偽りの家族として暮らすシチュエーションコメディ。かりそめの家族と割り切っていながら、その家庭を無自覚のうちに守ろうとするロイドやヨルの心境の変化に心暖まったり、推定実年齢は幼稚園児相当のアーニャがエリート小学校で巻き起こす珍事件に笑ったりと、さまざまな楽しみ方ができる。原作漫画の世界観を壊さないオリジナルエピソードも随所に挿入され、原作既読組のファンも安心して観られる作りが良い。本作とコラボする企業や食品メーカーの多さは『鬼滅の刃』も顔負けの勢いで、それだけ『SPY×FAMILY』がアニメファンのみならず広く一般層に浸透した証拠だろう。
春アニメの中では、中国の策士・諸葛亮孔明が現代の渋谷に転生する『パリピ孔明』が、主題歌「チキチキバンバン」の驚異的動画再生数と共に注目を集めたり、自分の恋心を押し殺している影のヒロインともいうべき狼谷(かみや)さん絡みで、しっとりしたエピソードを生んだ『可愛いだけじゃない式守さん』も、コミック界に数多く生まれる“〇〇の××さん”系の中で特に光っていた。
夏アニメの『リコリス・リコイル』は漫画、ラノベの原作を持たないオリジナル作品でありながら、制作陣も予想していなかったほどの大ヒットになったダークホース的存在。人知れず悪党を始末している秘密組織に所属する錦木千束と井ノ上たきなを主人公とした美少女ガンアクションだが、それまでの類似ジャンル作からは考えられないほどの爆発力でSNS界を席巻した。千束とたきなを描いたファンアートが日本、海外を問わずネットに溢れ、番組後半で千束の寿命が残り僅かと明かされてからは、相棒たきなの行動の行方をまさに世界中のファンが固唾を飲んで注視した。主人公が勤務する和風喫茶リコリコの顔ぶれも含め5人のレギュラーはしっかりとファンのハートをつかみ、TVアニメ第2期や映画化などさらなる新展開を待望する声も大きい。
他にもキネマシトラスの卓越した作画力で、自主規制の限界点まで挑んだような残酷さを描き切った『メイドインアビス 烈日の黄金郷』、夜の暗闇をパープルや蛍光グリーンなどカラフルな美術設定で表現した『よふかしのうた』、美少女の悪魔とそのヒモという風変わりなバディもので、ラブコメとシリアスの間を揺れ動き続けた『Engage Kiss』なども忘れがたい。