高橋一生「10年経って観ても面白いと思える作品に」 『岸辺露伴は動かない』3期での変化
マルチバースの世界観を漫画に落とし込んでいた荒木飛呂彦
――昨年の2期では「穴あきの衣装を着たい」とリクエストされていたそうですが、今期でも衣装になにかポイントがあったりするのでしょうか?
高橋:2期の時は、1期のイメージから発展させていきたかったんです。原作のテイストをふんだんに入れつつ、ちょっと人格が変わってしまったんじゃないかというぐらいお芝居に広がりを持たせて、少しずつ露伴の側面や自分の居場所を広げていった感じがありました。3期においては完全にお任せしました。スタッフの方々の中で持っている露伴像を投影させたものに僕が乗っかる形を取りたいと思って。柘植(伊佐夫)さんがデザインした衣装は、1期のものにプラスしたり、反対に引いて違うものをプラスしたりするというやり方が入っていたりします。また、今回のキービジュアルの衣装のように色味を真逆にするだけでも変わるりますし、連続性が見えるんです。露伴はこういうものが好きなんだ、というのが見えてくる。スタッフの皆さんの中で作り上げている露伴像を垣間見ることができて僕は非常に面白かったです。
――今回もスタッフの座組みは変わっていません。
高橋:できればどの現場にもこのスタッフの方々がいてくれて、リアクションをしてくれたら嬉しいんだけれどなと思います。というのは、今のテレビの制作事情において、どうしてもルーティンになってしまっているような気がしていて。どんな作品においても、どの部署も誇りを持つべきというのは、一つの作品を作っていくことがこれだけ消費サイクルの中に入ってしまった日本の制作事情の中では、とても大事なことだと僕は思っています。一つひとつの作品を残していく、10年経って観ても面白いと思える作品にしていかなければならない。誤解を恐れずに言うと、それはSNSなど観ている人たちのことを気にしてはだめだと思うんです。自分たちがいいと思うもの、それは内輪受けだと言われることかもしれませんが、どこかで厳しい目というものが存在しているという状況さえあれば十分じゃないかと僕は思っています。なぜなら、それが世間の縮図だと思うからです。この現場では、監督もプロデューサーの方も自分をいいなんて思い込んでいないはずですし、芝居中にスタッフの方から無言の圧を感じることもあります。10人いたら10人違う意見を持っている一番近い場所――僕はそこを信じていままでやってきましたし、そういった感覚でお芝居ができているということにおいては1期、2期、3期と、幸福な、かといって浮かれることのないお芝居をしやすい現場で、一丸となって作品を作り上げてきた感覚は常にあります。
――そんな現場の中で、一生さんが芝居で無意識的に動いてしまうということもあるのでしょうか?
高橋:アウトオブコントロールになってしまうからこそ、気をつけたいところもありました。エピソードによってある側面が際立って出てきてしまうので。ハリウッドの映画では意識的に作られていますけれど、概念としてのマルチバースの世界観を荒木先生はハリウッドがやり始める前から漫画に落とし込んでいた感覚があるんです。『ストーンオーシャン』(『ジョジョの奇妙な冒険 Part6 』)では時を加速するスタンドが敵に出てきますけれど、世界が一巡して別の世界線になってしまう世界観を荒木先生はお持ちになっていたのではないかと(※)。実写でやらせてもらう以上は一本の芯を通してその人格に整合性をつけていかないといけないものの、エピソードによっては別人格に見えてしまう可能性が出てくるので、そこの部分の繋ぎは意識していました。「今、記憶なかったです」というくらいに、アウトオブコントロールの動きを勝手にやってしまったりすることは、いままで通りにあるんです。だからこそ、舵を取らないと違うことになりかねないなと感じたところは特に慎重に。観た人が100人いれば100人感想は違うので、あまり気にはしていないんですけれど、自分の中で腑に落ちないと思うところには気を遣っていましたね。
――3年目を迎える『岸辺露伴は動かない』で一生さんが感じる、始まった当時と比べて露伴の変わらない部分、京香をはじめとするさまざまな登場人物と対峙することで変わってきた部分はそれぞれありますか?
高橋:変わらない部分は志の部分だと思います。何を優先するかということは露伴の中でブレていないですし、それは特に意識してお芝居してきたことです。変わったことといえば、「怪異」に対する対応の仕方でしょうか。これはもしかしたら怪異なのかもしれないという思考の結びつき方が、早くにシフトできている。それはまるで原作においてのスタンド攻撃かもしれないと思えるような。そこは変わってきた部分かもしれないです。ひょっとしたら彼が「ギフト」を貰った、もっと若い段階からそういう怪異と対峙してきたのかもしれないですけれど、ここまで顕在化してきたのは1期あたりの頃からなんじゃないかと僕は考えているので。その怪異に対する対応の仕方は柔軟になっているんじゃないかと思います。
――一生さんは怪異というものをどのように捉えていますか?
高橋:僕は怪異というもののベースには人間の恐怖があるんじゃないかと思っています。そこにまず人がいないと観測者がいませんし、状況や場所が人間の何かを後押ししてしまう要素を持っているんじゃないかと考えたりしています。怪異自体は火のないところに煙は立たないものだと思うんです。怪異と言われる多くのものはずっと語り継がれていますから。そのような面白い世界、自分が望んでいた世界に岸辺露伴としていられることの幸運は常に感じています。
※主人公・空条徐倫の運命の前に立ちはだかる最大の敵・プッチ神父のスタンド「メイド・イン・ヘブン」の能力「時の加速」によって宇宙が一巡し、新しい世界を迎えた。
■放送情報
『岸辺露伴は動かない』NHK総合にて放送
第7話:12月26日(月)22:00:~22:54放送
第8話:12月27日(火)22:00:~22:54放送
出演:高橋一生、飯豊まりえ、古川琴音(第7話ゲスト)、柊木陽太(第8話ゲスト)
原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』
脚本:小林靖子
音楽:菊地成孔
人物デザイン監修:柘植伊佐夫
演出:渡辺一貴
制作統括:斎藤直子、土橋圭介、ハン サングン
制 作:NHK エンタープライズ
制作・著作:NHK、ピクス
写真提供=NHK