前作と同じ展開の繰り返し? 『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』に感じた複雑な思い

 確かに、CGアニメーションは日進月歩の発達を遂げ、新しい表現が次々に更新されている。その試みは続けられていくべきだ。しかし、こと“リアリティ”という点において、CGアニメーションが実写映像を超えるということがあるのだろうか。本作のように全体をCGでコントロールするよりも、キャメロン監督の過去作『アビス』(1989年)のように、実写映像にCGを組み合わせる方が、高い臨場感を保ち得るのではないか。『アバター』シリーズは、どちらかというと、なぜか日本では人気の高いクリスチャン・ラッセンのイルカを描いた絵画のように、詳細ではありながら作りものめいて感じられるところがある。

 衛星パンドラの世界やナヴィたちが魅力的かどうかという点にも、疑問を覚える。異星人でありながら、あくまで人間の延長として描かれるナヴィはもとより、本作に登場するクジラのような生物「トゥルクン」など、地球に存在する既存の生態系や文化に少し意匠を加えただけのように感じられる部分が多いのだ。これは、観客に感情移入を促すため、突拍子もないデザインや設定を避けた結果であることは理解できるが、SFやファンタジーとしてオリジナリティが高いとは言いづらいのではないか。

 何より、デザインや個々のキャラクターそのものに惹かれる要素が少ないのである。前作のオーガスティン博士(シガニー・ウィーバー)やクオリッチ(スティーヴン・ラング)、トゥルーディ(ミシェル・ロドリゲス)、などのように、人間の姿のキャラクターの方が印象に残るものがあったように感じられる。

 とはいえ、ナヴィという人間ではない存在の視点に傾き、侵略する人間たちを倒すことが善きことであると描いているところは、本シリーズの画期的なところだろう。人間は、国家や社会、文化など、どうしても自分の育った場所や周囲の人々に仲間意識を感じてしまうところがある。そのため、自分たちの共同体が善であると考え、歴史のなかで悪事を働いた過去を否定しさえすることもあるのだ。本シリーズは、そんな考え方を物語のなかで覆してみせてくれるのである。

 とくに本作では、夫婦となったジェイク(サム・ワーシントン)とネイティリ(ゾーイ・サルダナ)、さらに子どもたち家族のつながりを示すことで、ナヴィたちの愛情の大きさが人間そのものであることを描き、侵略によってそれを破壊しようとすることの暴力性を強調している。また、スパイダー(ジャック・チャンピオン)のように、人間の姿でありながらナヴィの文化で育ったことで、二つの文化の間に否応なく立たされてしまう存在の苦悩が描かれているところが、本作の美点といえるだろう。

 しかし、それ以外の点においては、前作と同じような展開が繰り返されているのも確か。パンドラの森から海洋へと舞台を移しているだけで、復讐や資源奪取のため襲いくる地球側の軍とナヴィたちの戦いが描かれる点は変わらない。

 不可解なのは、劇中のジェイクの決断だ。自分たち家族が狙われていることを知ると、森の民を巻き添えにしないために海の民のコミュニティに移り住むという発想までは分かるものの、軍が海洋民族に目星をつけたことで、結局は森での戦争と同じような構図を、海で再び見せられることになってしまう。ジェイクたちの行動は、戦線を拡大し、海の民に被害を及ぼすことになっているだけだし、それは十分予想できることだったはずである。そうなった時点でジェイクの家族が海のコミュニティから離脱しないのは、スペクタクルを描く脚本上の都合のためでしかない。

 『アバター』シリーズは、キャメロン監督によると全5作が構想されているだけでなく、6、7作の計画も存在し、後継者に引き継ぐことを考えているとすらインタビューで語っている。(※)しかし、第2作の時点で前作の要素の多くをなぞっているところを見ると、第1作で『アバター』シリーズの核心は、すでにかなりの部分まで描いてしまったということなのではないのか。もちろん、今後意外な方向に物語が動くのかもしれないが、その場合、全5作が完成したときに第2作『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の存在意義は薄れてしまうことになりそうだ。

 立体映画としての存在価値を抜きにすれば、『ターミネーター』シリーズや『エイリアン2』、『アビス』、『タイタニック』などに比べ、どうしても『アバター』シリーズは、現時点で多くの点で心惹かれるものが少ないと感じてしまう。にもかかわらず、このシリーズに伝説的存在であるジェームズ・キャメロン監督の、映画監督としてのキャリアを投じてしまう計画には、どうしても複雑な思いを感じざるを得ないのである。

参照

https://www.hollywoodreporter.com/movies/movie-features/james-cameron-interview-avatar-the-way-of-water-franchise-future-1235271483/

■公開情報
『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』
全国公開中
監督:ジェームズ・キャメロン
出演:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガニー・ウィーバーほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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