『silent』で痛感する、“伝える”ことの難しさ この世界で見つけた様々な“言葉”の形

 私たちは自分の思いがちゃんと伝わってほしいと願うのと同じくらい、相手が伝えたいことをしっかりと汲み取れているだろうか。そんな反省も込めて、自分の解釈が多くの人のそれと同じなのか、ドラマを見た後にSNSで“答え合わせ”のようなものがしたくなるのかもしれない。

 数々の名シーンが生まれた本作だが、とりわけ様々な意見が飛び出したのが、第5話で紬が想とごはんに行く際に口にした「やっぱりなんでもよくない。ハンバーグ以外にして」の言葉。ハンバーグは別れた恋人・湊斗(鈴鹿央士)との日々を象徴する料理であることから、その思い出を大事にしたくてそう言ったのではないかという人。または、前日にハンバーグを作って弟と食べていたことから、2日連続になるから避けたかったのではと受け取った人もいた。あるいは、湊斗がいつも自分とのごはんの行き先を「なんでもいい」と言っていたことを思い出し、何かしら自分の意見を言葉にする大切さを学んだ紬の成長と見た人も……。

 これだけ人の数だけ解釈が違うのかと驚き、新しい発見に少しだけ誰かに優しくなれるような気持ちになる。同じ言葉を使って理解し合っているように思えても、万能ではないということ。むしろ、同じ言葉を使っているのだから、伝わっているはずとおごってしまっていることのほうが多いのかもしれないということに気付かされる。

 『silent』では、聴者とろう者、そして中途失聴者が出会ったことで、手話という言葉を使う必要性が生まれた。そして「伝わってるかな? 伝わったよね?」と丁寧にコミュニケーションをする努力をしていく様子が描かれる。それは、異なる母国語を持つ人とわかり合おうとするときも同じではないだろうか。いや、異なるバックボーンを持つ人とならいずれも同じになるかもしれない……そう考えると、もともと私たちは誰も「同じではない」ことが「同じ」なのだ。

 そのうえ、人生では「まさか」ということが起こる。それまで同じ境遇だと思っていた誰かが、突然持っていたものを失い「違う」ことがはっきり際立つこともある。奈々(夏帆)が言ったように「全く同じ境遇の人じゃなければ分かり合えない」と心を閉ざしたくなるほど悲しいことだけれど、悲しいばかりの世界ではない。全く同じ痛みを知ることはできないけれど、あなたが望むのと同じくらいあなたが嬉しい気持ちになってほしいと願っていると伝えることはできるのだから。

 口での会話が難しければ手話という言葉を使って。あるいは、物に託したり、音楽を奏でたり、ドラマを作ったり……。言語以外にも、この世界には様々な“言葉”の形がある。もしかしたら、その数だけ誰かが誰かに寄り添い、救われたのかもしれない。そんな言葉に思いを馳せながら、『silent』が私たちに伝えようとしていることをじっくりと咀嚼していきたい。

■放送情報
木曜劇場『silent』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:川口春奈、目黒蓮(Snow Man)、鈴鹿央士、桜田ひより、板垣李光人、夏帆、風間俊介、篠原涼子ほか
脚本:生方美久
演出:風間太樹
プロデュース:村瀬健
音楽:得田真裕
制作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/silent/
公式Twitter:https://twitter.com/silent_fujitv
公式Instagram:https://www.instagram.com/silent_fujitv/

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