『グレムリン』が誕生するまで スピルバーグ、ジョー・ダンテらの来歴を辿る

3人のフィルムメーカーたちの現在の立ち位置

 今ではすっかりクリスマス映画の定番のように扱われている『グレムリン』だが、実際に観てみるとジョー・ダンテの悪趣味っぷりがスパークしまくった、かなりの“残酷ムービー”と言っていい。

 モグワイたちがサナギになって孵化するシーンは、ほとんどリドリー・スコットの『エイリアン』(1979年)のようなキモさだし、中盤では主人公ビリーの母親がグレムリンをミキサーに突っ込んで粉々にしたり、ナイフでメッタ刺しにしたり、電子レンジで爆破させたりと、残虐行為のオンパレード。元々のシナリオでは、「ビリーの飼い犬がグレムリンに食べられてしまう」というさらなる残虐シーンが存在していたようだが、さすがにそこはカットされた。

 では、本作はジョー・ダンテらしさが存分に発揮された映画なのだろうか? 筆者は、彼の真骨頂は破壊的な(いや、常軌を逸したというべきか?)ギャグセンスにあると思っている。そういう意味では、映画自体がグレムリンによって乗っ取られたり、観客として映画館に来ていたプロレスラーのハルク・ホーガンがそれを野次ったりする、続編の『グレムリン2 新・種・誕・生』(1990年)の方がはるかにハチャメチャで、ジョー・ダンテらしさが発揮された作品なのではないか。むしろ第1作となる本作は、脚本を手がけたクリス・コロンバスの作品である、という位置付けが正しいように思われる。

 クリス・コロンバスといえば、『ホーム・アローン』(1990年)、『ハリー・ポッターと賢者の石』(2001年)など、キッズムービーで一大センセーションを巻き起こした才人。当時彼はニューヨーク大学映画学科を卒業したばかりで、マンハッタンのアパートの一室でコツコツとシナリオを書いていた。

 そのアパートは、夜になるとネズミの大群がぴょんぴょん跳ね回る音がして、とっても不気味だったという。彼はその足音を聞きながら、いつしか小悪魔の大群が静かな村を襲う物語を夢想していた。そして一気に書き上げた『グレムリン』のシナリオが、スピルバーグの目に留まる。彼はアンブリンの本社があるロサンゼルスに呼び出され、一気にシナリオライターとしての道が開かれることに。『グレムリン』が映画化されるだけでなく、伝説の財宝を求めて少年少女たちが冒険をする『グーニーズ』(1985年)の脚本も務めることになったのだ。『グーニーズ』監督のリチャード・ドナーは、「彼が最初の打ち合わせに来たとき、父親を車に乗せてきたのかと思った」と、そのあまりの若さに驚いたという。

 その後もクリス・コロンバスは、若きシャーロック・ホームズの冒険を描いた『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』の脚本を務めるなど、アンブリン製作映画の中枢を担い、やがて『ホーム・アローン』で監督業でも大成功を収めることになる。ティーンエイジャーの恋と青春と冒険。それこそが、彼にとっての映画的主題なのだ。

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 その後、スティーヴン・スピルバーグ、ジョー・ダンテ、クリス・コロンバスの3人の立ち位置は明らかに変質した。ディズニー映画に傾倒していたスピルバーグは、やがて大人になったピーター・パンを主人公にしたファンタジー映画『フック』(1991年)を撮ることで、自分の中の“永遠の少年”から脱皮を遂げ、『シンドラーのリスト』(1993年)や『プライベート・ライアン』(1998年)のようなシリアス路線へと次第に舵を切っていく。ジョー・ダンテは、『ザ・ホール』(2009年)や『ゾンビ・ガール』(2014年)など散発的に映画を発表しているものの、80年代に比べて明らかにその存在感は失われている。そしてクリス・コロンバスは、『ピクセル』(2015年)、『クリスマス・クロニクル』(2018年)など、若い頃からのスタンスを変えることなく、SFやコメディ映画を中心に作品を撮り続けている。

 そういえば、『グレムリン』でこんなシーンがあった。ビリーの学校の先生が授業中に、こんなセリフを語るのだ。

「マユの中に入っていて、その中でサナギはいろいろな変化を遂げる。(中略)生物学で“変態”と呼ぶ現象で生物の形が変わるのだ」

 サナギとなって変化を遂げようとした者、あえて変化を遂げようとしなかった者。筆者の目には、スピルバーグのみが“変態”で生物としての形を変え、その存在感を今なお保ち続けているように思えるのだ。

参考

※. https://www.filmcomment.com/blog/interview-joe-dante/

■放送情報
金曜ロードショー『グレムリン』
日本テレビ系にて、21:00〜22:59放送 ※放送枠5分拡大
監督:ジョー・ダンテ
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:クリス・コロンバス
出演:ザック・ギャリガン (関俊彦)、フィービー・ケイツ (玉川砂記子)、ホイト・アクストン (富田耕生)
製作:マイケル・フィネル
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
©Warner Bros. Entertainment Inc.

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