『ファーストペンギン!』“すごい景色“を見せてくれた奈緒 脚本に込められた漁師の願い
ここで爆発するのは、和佳の啖呵、魂の叫びだ。それは「クソひょっとこ!」と片岡らに怒号を飛ばした第1話を彷彿とさせるもの。演じる奈緒の迫力はかつてと同等、もしくはそれ以上だが、違うのはうっすらその瞳に涙が滲んでいることだ。片岡の提案に甘えて、息子の進(石塚陸翔)と一緒にさんしに残る選択もできた。けれど、和佳があえて怒りをあらわにしたのは、浜を思ってのことだ。
「この先にはいつか絶対にすごい未来が待ってるから。すごい景色があるはずだから、それを見せてよ」(和佳)
「もちのろんスケじゃ!」(片岡)
片岡との約束とともに、和佳は進を連れて浜を去っていく。忘れてはならないのは、この『ファーストペンギン!』のストーリーテラーは高校生となった10年後の進(城桧吏)であること。エピローグ的にさんしのその後が語られる中で、「コロナ」という文字とマスクをするキャストたちの姿から、年代が現代に移ったことが示される。高校生となった進と再会する片岡。そこではお魚ボックスが全国に10船団に広がり、遠く離れた和佳に「すごい景色」を見せてくれていた。和佳にあるのは、何事も諦めない勇気ある心と物事を新しく切り拓いていくパワー。海を豊かにするためにと、今度は林業の“ファーストペンギン“として活躍していく未来が待っているのだろう。
もう一つ忘れてはならないことは、この『ファーストペンギン!』が奇跡の実話をモデルにした物語であること。森下佳子によるオリジナル脚本ということもあり、実際とは違うとことも多々あると思われるが、「さんし船団丸」のモデルとなった「萩大島船団丸」の事務所を奈緒が来訪するHuluのスペシャルコンテンツでは、片岡のモデルとなった漁師の長岡秀洋氏が「漁業の世界は厳しいんです。私としてはこのドラマをきっかけに、1人でも漁師をやってみたい若者が出てきたら嬉しい」と話している。実際に今も漁師たちの物語は続いているということでもある。
また、主演の奈緒にとって『ファーストペンギン!』は、役者として新たなギアを手に入れた作品だった。母親役への挑戦として髪の毛を切り臨んだ和佳という役は、女性が持つタフネスが魅力的な人物だが、情緒の激しい難儀な役柄。それを最終回では第1話を超える、憂いを帯びた演技へと昇華させた。“すごい景色“を見せてくれた奈緒の物語もまたこれからも続いていく。
■配信情報
『ファーストペンギン!』
Huluにて配信中
出演:奈緒、堤真一、鈴木伸之、渡辺大知、松本若菜、ファーストサマーウイカ、遠山俊也、志田未来、中越典子、梶原善、吹越満、梅沢富美男
脚本:森下佳子
演出:内田秀実、小川通仁ほか
企画プロデューサー:武澤忠
プロデューサー:森雅弘、森有紗
チーフプロデューサー:三上絵里子
主題歌:緑黄色社会「ミチヲユケ」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
制作協力:日テレアックスオン
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ
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