眞栄田郷敦の“覚醒”が『エルピス』を牽引 浅川と岸本の“縦走”の行き着く場所は?

死んだ目で魅せる、俳優・眞栄田郷敦の“覚醒”

 そして、この中盤戦を牽引した眞栄田郷敦の演技は目を瞠るものがあった。正直、序盤の段階では実力者揃いのキャストの中で、俳優デビューから3年の眞栄田にはやや荷が重いのではという懸念もあった。

 だが、それらはすべて杞憂だった。一気に惹き込まれたのが、第4話ラストで見せたあの光のない黒目。とろんとしていて、まるで生気がない。あの目と目が合った瞬間、自分も浅川のように脳天から真っ二つに斬られたような気がした。岸本は目力が強い設定だが、眞栄田郷敦の俳優としての魅力は目力というよりむしろ死んだ目にあると思っていたので、ここに来てまさにその真髄を発揮したと身震いした。

 そこからの第5話の取り憑かれたような妄執ぶりは鳥肌モノだ。いかにもいいものを食べているんだろうなとわかるツヤツヤの肌はすっかり潤いを失い、こけた頬に無精髭。けれども、不思議と精悍さは増し、色気が匂い立つ。必死にすがりつく母親に向けた失望と怒りの眼差しはぶつけようのない悔恨に満ちていた。岸本が暴走すればするほど、ゾクゾクするような興奮が背筋を走る。

 そして、浅川から自分のVTRの価値を認めてもらえたあとの、「雑炊食っていいっすか」。あの瞬間、いつもの岸本に戻った。雑炊をむしゃぶるように食い尽くす生命力と純粋さは、観ていて心温まるものがあった。

 眞栄田郷敦といえば、その家庭環境から偉大な父や先に売れっ子となった兄の名前とセットで語られることが多かった。けれど、この第4・5話を観れば、もう誰かと比べたり一緒に語る必要などないことがわかるだろう。

 それは別に「父を超えた」とか「兄を超えた」とか安い言葉で称えるものでもない。眞栄田郷敦は眞栄田郷敦として、とてつもなく魅力的で、この先の将来が楽しみな俳優であるということだ。

 渾身の企画が潰された――そんな理不尽さえ誰もが「よくあること」と飲み込む中、パワーゲームなどまるで知らない岸本が逆境をひっくり返すエルピス=希望となった。だが、この光明が新たなる災いに転じていくのかもしれない。その中で浅川と岸本はどう戦っていくのか。岸本がここからさらにどう“覚醒”していくかとともに、眞栄田郷敦のさらなる“覚醒”にも期待が止まらない。

■放送情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00~放送
出演:長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本:渡辺あや
演出:大根仁、下田彦太、二宮孝平、北野隆
プロデュース:佐野亜裕美(カンテレ)、稲垣護(クリエイティブプロデュース)
音楽:大友良英
主題歌:Mirage Collective「Mirage」
制作協力:ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作:カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト:https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter:@elpis_ktv

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