『silent』鈴鹿央士目線でこれまでを振り返る 湊斗が下した、8年越しの静かな決意

“怒”を発揮するしかない湊斗

 紬に手話教室のチラシを渡し、想と言葉を交わせるように橋渡しをしたのも湊斗だった。想が失聴したことをなぜ教えてくれなかったのかと怒る紬に「良かった。思ったより落ち着いてて。このこと知っちゃうと紬、不安定になるかなと思って」と優しく諭す湊斗。“人のために優しさ全力で使っちゃって、自分の分残すの忘れちゃう”湊斗にとっては紬にもっと取り乱された方が、気が紛れて楽だったのかもしれない。その方が紬の動揺に向き合いなだめる中で、自分自身の動揺ややるせなさを飲み込み流し込めるから。紬に責められ、当時の想の力にもなれなかった自分を思いっきり悔めるから。今なお想と“普通に話す”ことを望み、手話をできれば覚えたくないというのは、相手のペースに合わせてきた湊斗にとってはかなり珍しい。どちらかと言えば融通が利かず、普段は自分のペースに人を巻き込む側にいる紬と立場が逆転している。何かにこの感情をぶつけ、発散させたくて“怒”を発揮するしかない、いつも通りではない湊斗の姿が痛々しく苦しい。

 そして私たちは、「すんなり受け入れて手話まで覚えて、普通に顔見て話してすごいよね。紬、想の方が良いんじゃないかって、取られるんじゃないかって、そう思ってそんなことに怒って、想のこと悪く思えば楽だったから。友達の病気受け入れるよりずっと楽だったから。名前呼んで振り返ってほしかっただけなのに」という湊斗のリアルで悲痛な叫びに打ちのめされた。

8年越しの静かな決意

 湊斗は自分の中の時計を進めるためにも、紬と想、双方の背中を再び押す。想のためにサッカー部のメンバーを集め、自分が紬から身を引くことを決める。その瞬間、全員が傷つくとわかっていても。「紬、想の横にいる時が一番かわいいんだよね。知らなかったでしょ?」と言う湊斗の言葉には、“すごく仲の良い友達”と“すごく好きな人”をとことん想っている彼ゆえに見えてしまう景色や背景が浮かび上がる。そのことに気付いてしまった自分をもう今度こそ見過ごしたくはないという8年越しの静かな決意があったようにも思えた。

 第1話で「それ想に言ってやって」と高校生の紬を想の元へ送り出した湊斗が、今度は「呼んであげて。紬も、『紬』って。喜ぶから」と想にこれからを託した。紬が湊斗に想のことを相談する姿を見るのはまだ少し胸が痛む。それでも少なくとも高校時代や少し前のように、湊斗だけが双方の想いや状況を手に取るようにわかってしまい、全容が見えてしまってはいない、というのはある意味救いのようにも思える。

 第3話で湊斗の指から飛んでいったてんとう虫は、第7話で想が男の子を抱っこしてとってあげた絵本のところに。湊斗が運んでいった幸運で想がどんな日々を歩んでいくのか、そしてもちろん湊斗の幸せも願わずにはいられない。

■放送情報
木曜劇場『silent』
フジテレビ系にて、毎週木曜22:00~22:54放送
出演:川口春奈、目黒蓮(Snow Man)、鈴鹿央士、桜田ひより、板垣李光人、夏帆、風間俊介、篠原涼子ほか
脚本:生方美久
演出:風間太樹、髙野舞、品田俊介
プロデュース:村瀬健
音楽:得田真裕
制作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/silent/
公式Twitter:https://twitter.com/silent_fujitv
公式Instagram:https://www.instagram.com/silent_fujitv/

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