『invert 城塚翡翠 倒叙集』で変わる清原果耶の“性格” 倒叙ミステリーの魅力を解説

 そして、『霊媒探偵・城塚翡翠』に区切りをつけたうえで、新たに『invert 城塚翡翠 倒叙集』が始まるわけだ。主人公が同一であり、前番組のレギュラーの多くは引き続き出演するのに番組名を変えるのはなぜか。それは、最終話と銘打つことで連続ものに山場を作る意図や、依拠する原作小説のタイトルにならうだけではなく、そもそも両者が異なる性質のシリーズだからだと考えられる。

 ミステリーでは普通、物語前半で事件の謎が提示された後、探偵役の推理によって犯人や犯行方法がようやく判明する。凝った構成ではあったが、『霊媒探偵・城塚翡翠』も基本的にそのスタイルのバリエーションだった。逆にまず犯人の側から事件が起きた経過を語り、その完全犯罪の計画が捜査によっていかに崩されるかを描くのが、倒叙ミステリーと呼ばれるスタイルだ。相沢沙呼の『invert 城塚翡翠倒叙集』(講談社/2021年)、『invert II 覗き窓の死角』(講談社/2022年)もそのスタイルで書かれた作品集であり、前者に3話、後者に2話を収録している。

 同シリーズを原作としてドラマ『invert 城塚翡翠 倒叙集』は制作されるわけだが、倒叙ミステリーは、日本では小説以上にドラマで広く知られるようになったスタイルなのだ。アメリカのテレビドラマ『刑事コロンボ』が、この国でも1972年以降に放送され人気を博した。日本語版での「うちのカミさんが~」というコロンボの口ぐせは、よくモノマネのネタにされたし、いったん帰りかけた彼がふり返り「あと1つだけ」としつこく質問し出して、容疑から逃れようとする犯人をうんざりさせるお決まりの場面は、以後の倒叙ミステリーの小説やドラマで定番の展開となった印象がある。日本では『刑事コロンボ』の影響下で三谷幸喜が脚本を書いた『古畑任三郎』(1994年~2006年/フジテレビ系)がヒットし、やはり主演だった田村正和の独特な口調がよくモノマネされた。

 先行するそれら有名ドラマ2作を意識して書かれた小説シリーズ『invert』が、ドラマになるのは、興味深い。相沢の原作には『刑事コロンボ』的な部分や、翡翠が『古畑任三郎』を真似た小芝居をする場面があったが、ドラマではどうなるのだろうか。

 また、倒叙ミステリーは、探偵役と犯人の知的なかけひきで面白がらせるものだが、理屈だけでなく、人間性の勝負となる面も大きい。疑いをかけられても冷静でいようとする犯人を、捜査側が嫌みな口調で少しずつ精神的に追いつめ、意外な手がかりから真相を暴く。時には犯人が可哀想になるくらいの巧みな罠を仕掛け、正義の味方のはずなのに逆に憎らしく見えもするのが、倒叙ミステリーの探偵役である。だから、モノマネされるくらい個性的なキャラクターに造形される。

 そう考えると、『霊媒探偵・城塚翡翠』最終話であらわになった、「あれれ?」で犯人を苛立たせる翡翠のキャラクターは、倒叙ミステリーの主役にふさわしい。「霊媒探偵」である彼女は、前番組では「霊媒」に力点をおいた立ち居振る舞いをしていたのに対し、新番組では「探偵」の性格を強めるだろう。

 犯人側の視点から始まる倒叙ミステリーだと、事件の経過がすべて見えているように思いがちだが、読者や視聴者が気づかないなにかを作者が潜ませているケースもある。また、『invert』原作には、文字だから成立し、映像にしたらすぐバレると思われるトリックが読みどころとなるエピソードもあった。そうした要素が、なんらかの方法によってドラマ版に組みこまれるのか。また原作本で城塚翡翠と並んで表紙に登場したように『invert』では千和崎真の役割も大きくなる。翡翠と真のキャラクターをどこまで描きこむのか。あの最終話を観たあとだけに期待は高まる。

■放送情報
『invert 城塚翡翠 倒叙集』
日本テレビ系にて、11月20日(日)スタート 毎週日曜22:30~放送
出演:清原果耶、小芝風花、田中道子、須賀健太、及川光博
原作:相沢沙呼『invert 城塚翡翠倒叙集』『invert II 覗き窓の死角』(講談社)
脚本:佐藤友治
脚本協力:相沢沙呼
演出:南雲聖一、菅原伸太郎、伊藤彰記
チーフプロデューサー:田中宏史、石尾純
統轄プロデューサー:荻野哲弘
プロデューサー:古林茉莉、柳内久仁子(AX-ON)
協力プロデューサー:藤村直人
音楽:Justin Frieden
主題歌:「妖」福山雅治(アミューズ/ユニバーサルJ)
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
©︎日本テレビ

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