『森の中のレストラン』を観て考える、自分自身の命を慈しむこと
冒頭、京一の自殺を食い止めた彼は、次のショットにおいて鹿を解体している。そしてその鹿の肉を京一に食べさせる。その一連の流れは、一見驚かされるが、本作の一貫した思想であるように思う。自ら命を絶とうとした人間を引き留める一方で、片や生きようとしていた鹿の命を奪い、それを食べさせる。それによって人は、生きる力を得る。その優しさと残酷さの共存。人は、往々にして多くの命を奪い、その命を食料としていただくことによって、生き永らえている。それが否応にも可視化される、自然と共生する日々の中で、「生きる」ことを再び始めた人々は、いただいた命を慈しむと同時に、それによって今日もまた生き永らえている、自分自身の命もまた、慈しむことを覚え始める。欣二が京一に声を掛けたのと同じように、欣二と京一と、彼の飼っている犬マイロという、連鎖するように生まれた「ゲートキーパー」たちによって救われた紗耶も、京一の作る美味しいご飯を食べ、時には欣二に習って狩猟や釣りを経験し、それを皆で食べるという幸せな時間を過ごすことで徐々に生きる力を取り戻していく。そしてそれらの記憶は、その後再び絶望の中で立ちすくむことになる彼女をこちら側に踏みとどまらせるための大きな力となっていくのである。
どんな絶望の只中にいても、例え、これから死のうと決意するほど思い詰めていたとしても、彼ら彼女らは、何かを食べる時、ことさら丁寧に「いただきます」と言う。例えば、京一の作るレストランの料理の数々。その場で調理して食べる、欣二と京一と紗耶が自分たちで釣った鮎。京一が「命を選択する時間を提供する」ために始めた「最後のレストラン」でリクエストされる「目玉焼きの乗った焼きそば」といった、いわば「最後の晩餐めし」(これは美味しそうである半面、少しゾクリとさせられる)。京一が、亡くなった娘と紗耶を重ねるに至った2人の好物「バジルのスパゲティ」。そして、京一が絶望の中で淡々と食べる「卵かけごはん」のシンプルな美しさ。過酷な物語の中で、食べ物だけは異様に美味しそうで、そこがまた、惹きつけられずにはいられない、本作の味わいの所以なのである。
■公開情報
『森の中のレストラン』
11月19日(土)より、新宿K’s cinemaほか全国順次公開
出演:船ヶ山哲、畑芽育、奥菜惠、谷田歩、佐伯日菜子、染谷俊之、森永悠希、小宮孝泰
プロデューサー:大谷直樹
脚本:幸田照吉
監督:泉原航一
制作:ザロック
配給:NeedyGreedy、フルモテルモ
2022年/カラー/ビスタサイズ/5.1ch/92分
©森の中のレストラン製作委員会2022
公式サイト:https://mori-rest.com/