「映画の主役は“音”そのもの」『擬音 A FOLEY ARTIST』監督に聞く、台湾映画史と音の歩み

『擬音』監督に聞く音の重要性

台湾映画における吹替声優の貢献度

――本作は、フーさんだけでなく多くの台湾映画人に話を聞き、フォーリー以外の音のあり方についても触れていますね。

ワン・ワンロー:私も最初はフーさんだけを取り上げる予定でした。しかし、フーさんに話を聞いてみると、フォーリー・アーティストになる前にはセリフの吹き替えや音楽のためのアシスタントなどを経験しておられて、映画の音について非常に幅広い知識を持っていることがわかったんです。そんなフーさんのキャリアを振り返れば、フォーリーのことだけでなく、台湾映画の音の歴史も描けると思ったし、フーさんという人物を描くためにも必要なことだと思いました。さらに、フーさん以外にも多くの映画人にインタビューできましたので、彼らの語る言葉はとても貴重で、台湾映画の歴史そのものを描くことができました。

――昔の台湾映画は、セリフを声優によって吹き替えていたのを、この映画を観て初めて知りました。昔は、映像の役者とは別に声優が声の芝居を作っていたのですね。

ワン・ワンロー:そうです。この映画のために声優にもたくさんインタビューしましたが、みなさん口を揃えて、「スター俳優が演技賞を受賞しているが、声の芝居は自分たちがやったのだから、我々にも半分くらい受賞する権利があるんじゃないか」と言います。日本では、有名な声優はたくさんいると思いますけど、中国や台湾の映画界では声優は影の存在です。でも、歴史を振り返ると、声優の貢献度はすごく高いと思います。

――この映画を観て、吹き替えには吹き替えならではの面白さがあると気が付きます。

ワン・ワンロー:そうですね。フィルム撮影の時代には、全ての音を同時録音することは難しかったはずなので、日本でもかつて似たような経験をしているのではないかと思います。

――現場の音を同時録音するようになったのは、台湾ニューシネマが登場してからと映画の中で言及されていましたね。

ワン・ワンロー:そうです。侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督の『悲情城市』から現場で同時録音が実現しました。

――近年、映画館の音響は多種多様になってきていますから、音の重要性は高まっていると思います。ワン監督はそれについて何か思うことはありますか?

ワン・ワンロー:これについては映画が発明された頃に一度立ち戻って考えてみるべきかもしれません。映画が誕生した当時、列車は動く映像を観て人は驚いていました。それ以来、映画はずっと娯楽性に重点が置かれつづけたきましたし、そのために様々な発明があったことは映画にとって良いことだと思います。私たち映画人がそれらの発明をどのように活かすかが問われているのだと思います。

――ワン監督は本作の前には詩人を、後には漫画家を題材にしたドキュメンタリー映画を制作していますが、アーティストを撮ることにこだわりがあるのですか。

ワン・ワンロー:ルオ・フーという詩人を記録したドキュメンタリー映画は、私にとって長編デビュー作です。この作品は文学者のドキュメンタリーをシリーズで作る企画があって、会社が私にチャンスをくれたことで実現しました。3作目の漫画家チェン・ウェンのドキュメンタリーは委託を受けての制作でした。3本続けてアーティストのドキュメンタリーが続いたので、今は一旦立ち止まってこれから何を撮るべきか考えているところです。

■公開情報
『擬音 A FOLEY ARTIST』
新宿K’s cinemaほか全国順次公開中
監督:ワン・ワンロー(王婉柔)
出演:フー・ディンイー(胡定一)、台湾映画製作者たち
製作総指揮:チェン・ジュアンシン
製作:リー・ジュンリャン
撮影:カン・チャンリー
サウンドデザイン:ツァオ・ユエンフォン
編集:マオ・シャオイー
配給・宣伝:太秦
協力:国家文化芸術基金会
後援:台北駐日経済文化代表処台湾文化センター
特別協力:東京国際映画祭
2017/台湾/カラー/DCP/5.1ch/100分/日本語字幕:神部明世
©︎Wan-Jo Wang
公式サイト:foley-artist.jp
公式Twitter:@foley_artist22

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