『舞いあがれ!』赤楚衛二が見せた“貴司くん”の変化 ばんばの言葉が凍った心を溶かす

『舞いあがれ!』赤楚衛二の凍っていた心

 『舞いあがれ!』(NHK総合)第33話では、長崎・五島へ向かった舞(福原遥)と久留美(山下美月)が姿を消していた貴司(赤楚衛二)と再会した。五島までやってきた舞と久留美を見て、「わざわざ来てくれんかってもよかったのに。僕は元気やで」と声をかける貴司だが、心が沈んでいるのがはっきりと分かる。

 それでも貴司は、幼なじみの舞と久留美を前にすると素直になれるようで、2人に心の内を正直に打ち明けた。職場での出来事、古本屋「デラシネ」の閉店、力ない声で打ち明ける貴司を見ていると、居場所がなくなり徐々に追い詰められていった彼の心情が伝わってくる。「周りに溶け込んでうまいことやろうとして空っぽになってしもた」「僕には、何もない」と口にする貴司の姿が切ない。

 人とぶつかるのが怖くて、自分の本当の気持ちを心の奥にしまい込んだ結果、自分が何をやりたいのか、何を好きかが分からなくなってしまったと話す貴司だが、舞と久留美が会いに来てくれたことで、自分の本当の気持ちを少しずつ取り戻していく。久留美から「ここ来て何してたん?」と聞かれ、貴司は3日間、灯台から海と空を眺めていたことを話す。貴司は淡々と見ていた風景を語っていたように見えるが、紡ぎ出された言葉はまるで詩のようだった。何を好きかが分からなくなるほど追い詰められても、詩が彼の心を支え続けていたように思えた。

 舞と久留美、貴司は舞の祖母・祥子(高畑淳子)の家へ泊まることに。祥子は貴司の話に耳を傾ける。祥子は貴司に「変わりもんたいね」と言う。舞は「言い過ぎやて」と慌てるのだが、祥子のはっきりとした物言いとまっすぐな言葉は貴司の心に響く。

「貴司くんも周りに合わせんでよか」
「自分のことば知っちょる人間が一番強かけん。変わりもんは変わりもんで堂々と生きたらよか」

 ここのところ、貴司はずっと思い詰めた表情をしていた。そんな貴司が祥子の言葉を受けてふっと笑う。その穏やかな目元や優しい笑みを湛えた口元は、舞や久留美が知っている貴司本来の優しい顔つきだった。貴司が自分で口にしていた通り、凍っていた心が解けつつあるのがわかる。

 貴司は本当の自分のまま生きていける場所を探したいと話す。「もしかしたら、ないかもしれへん。けど、いろんな場所に行ってみたいと思う」そう話す貴司の口調は普段通りの落ち着いた口調なのだが、その場所が見つかる確証はなくとも前へ進みたいという強い意志を感じた。八木(又吉直樹)が勧めた短歌も、貴司の行く末の心強い支えとなりそうだ。舞と久留美も、貴司の決意に背中を押される。久留美は長い間会っていない母親に会う決心をした。舞も「パイロット、諦めへん」と意気込む。強い絆で結ばれた3人それぞれの決意がどう動くか、楽しみだ。

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