ヴィラン不在? 『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』が前作から継承したバトン
ここでアイアンハートとネイモアについて少し解説しましょう。アイアンハートの正体はリリ・ウィリアムズという天才少女。ウィリアムズは2016年にコミックに初登場し、2017年にアイアンハートになりました。そう、マーベルの中でも新参者であり、コミックでデビューしてわずか5年でMCU入りです。
それに対し、ネイモアは1939年にコミックでデビューしました。マーベルヒーローの中でも最古参の一人で、この映画で描かれているような性格と能力を持った超人として描かれています。ヒーローとして活躍することもあるのですが、彼はあくまで海底王国・自分の民たちが大事であり、そのために人類と敵対することもある。従って、時にヴィランであるわけです。コミックにおいては、氷漬けのキャプテン・アメリカを発見して彼が現代に蘇るきっかけを作ったのはネイモアだし、ドクター・ストレンジ、ハルクとともにディフェンダーズというチームを作ったり、さらにコミック版のイルミナティのメンバーであります(当初、ネイモアは映画版の『ドクター・ストレンジ』続編に出る予定があったそうです)。
今回、新ブラックパンサーのために、マーベルの初期ヒーローと最新ヒーローが駆け付けた形になりました。ちなみにブラックパンサーのデビューは、1966年の『ファンタスティック・フォー』52号です。アメコミ史における最初の黒人スーパーヒーローと言われています。なお最初のアフリカ系アメリカ人ヒーローと言われているのはファルコン(サム)で、1969年デビューです。
ネイモアは海どころか空も飛べるし、アイアンハートも飛行機能がある。前作『ブラックパンサー』は地上と地下の戦いだったのに対し、今回は海と空が加わります。そして、皆さんが大好きな親衛隊ドーラ・ミラージュも大活躍します(MCU最強の部隊ではないでしょうか)。
本作の見どころは、誰が新ブラックパンサーになるかです。前作で、あの神秘のハーブは燃え尽きてしまった。果たしてどうやって力を得るのか? ある程度、予想はつくのですが、この新ブラックパンサー誕生のくだりで「ああ! そう来るか!」とサプライズがありました。皆さんもきっとビックリすると思います。ビックリと言えば、ネイモアが自身について語るシーンで、ある言葉が出てきます。ついにMCUでその言葉が出たか! とちょっと興奮しました。
本作において、平和を愛する正義の国ワカンダ対邪悪な帝国タロカンという単純な構造にはなってはいません。タロカンおよびネイモアの言っていることも正しい。自分がネイモアの立場なら同じ選択をしたでしょう。だから、この映画にはヴィランがいないのです。ヒーローを失った世界でありヴィランも登場しない、という設定の中で、改めて“ヒーローとは何か?”を問いかけるヒーロー映画、それが『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』なのです。
■公開情報
『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』
全国公開中
監督:ライアン・クーグラー
製作:ケヴィン・ファイギ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
©︎Marvel Studios 2022