エディ・レッドメインが圧巻の演技を披露 『グッド・ナース』が描いた“おそるべき脅威”
困窮するシングルマザーの看護師(ナース)と、何かと彼女を助けようとする、親切な同僚男性。この二人の看護師の物語を描く『グッド・ナース』は、背景に戦慄を覚えるほどの凄まじい事情が存在する、実話を基にした配信作品だ。
この二人、エイミーとチャーリーを演じているのが、ジェシカ・チャステインとエディ・レッドメインなのである。一見静かな友情の物語に、演技力が高く輝かしいキャリアを持つ俳優たちを配する意味があるのかと、ストーリーの序盤は思うかもしれない。だが、徐々に隠されていた内容が明かされてゆくに従って、このキャスティングに大きな意味があったことを思い知らされることになるだろう。
ここでは、そんな名優によって演じられた本作『グッド・ナース』が描いた、おそるべき脅威と、それを取り囲むさらに巨大な危機について考えていきたい。
物語の始まりでは、看護師エイミーが病にかかり、大きな手術をしなければならない状況が映し出される。しかし彼女は契約上、勤続期間の関係でまだ病院負担の保険を持てず、高額な手術費を払うことができない。数々の患者の面倒をみている看護師でありながら、皮肉にも自分の病気を治療することができずにいるのである。
アメリカは極端な経済格差のある国である。世界でも最高水準の医療が受けられるにもかかわらず、国民皆保険制度が存在せず、経済的な事情から民間の保健にも入れていない市民が少なくない。生活困窮者は高額な医療費を支払うことができず、重い病気にかかると、そのまま亡くなってしまうことになる。仕事中に指を2本切断してしまった大工が、手術費の不足から、くっつける指を選ばされるという驚くようなエピソードが、マイケル・ムーア監督の医療ドキュメンタリー映画『シッコ』(2007年)で語られている。全ては、利益を軸に動いているのである、
本作の主人公エイミーもまた、保険なしでは病を治療することができない。だから、保健を得ることのできる数カ月先まで、なんとか症状を乗り越えながら待つしかない状況にある。彼女の病は、突然気を失ってしまうこともあり、そのような状態で看護師の激務を続けることは困難だ。しかし、ここでクビになるわけにいかないエイミーは危険を冒しながら、さらに周囲に症状を隠しながら働き続けることを余儀なくされる。
窮地に立たされたエイミーを助けたのは、同じ病院に配属されたばかりの同僚、チャーリーだった。数々の病院を渡り歩いてきたという彼は、気を失いそうになっているエイミーを誰にも知られずに介抱し、症状を抑える薬品を秘密裏に手配しさえする。チャーリーは、これからも助けていくとエイミーに語りかけるのだ。
ここまでは、人情に溢れた労働者たちの助け合いの物語であり、心温まる映画として観ることができる。エイミーもチャーリーも、病院の規則に反してまで、目の前で困っている人間を助けようとする、まさに「グッド・ナース」といえる存在である。
だが、次第におかしなことが起こり始める。病院内の患者が、原因不明の死を遂げるケースが増えてきたのだ。しかもそれは、チャーリーが勤め始めてからのこと。警察が捜査を開始したことで、エイミーもそのことに違和感を覚えることとなる。