モリコーネ音楽に“生”で触れる機会を見逃すな! 魂を揺さぶる特別コンサート

 映画好きなら見逃せない貴重なコンサートが11月5日、6日の2日間、東京国際フォーラム ホールAにて開催される。2020年にこの世を去った映画史に残る作曲家、エンニオ・モリコーネの功績を讃えて、彼が遺した名曲の数々を壮大なスケールで演奏する『エンニオ・モリコーネ「オフィシャル・コンサート・セレブレーション」』だ。このコンサートは世界中を回る予定だが、その記念すべき初演が日本で開催されることになったのだ。2023年1月にドキュメンタリー映画『モリコーネ 映画が恋した音楽家』の公開を控えてモリコーネの作品や人生が改めて注目を集めるなか、今回のコンサートは選りすぐられた音楽家たちが奏でる音楽と映像を完璧にシンクロさせる、という凝った趣向で、モリコーネの音楽に生で触れるまたとない機会となる。

エンニオ・モリコーネ『オフィシャル・コンサート・セレブレーション』【11月5日(土)・6日(日) 東京国際フォーラムにて開催!】

 世界中の映画ファンから、尊敬と親しみを持って「マエストロ(巨匠)」と呼ばれたエンニオ・モリコーネ。映画好きなら、その名を知らない者はいないだろう。たとえ知らなくても、どこかで彼が書いたメロディを聴いたことがあるはず。なにしろ、『荒野の用心棒』(1964年)、『アンタッチャブル』(1987年)、『ニュー・シネマ・パラダイス』(1988年)、『海の上のピアニスト』(1998年)といった代表作をはじめ、生涯で500作以上の映画音楽を手掛けたのだ。彼にアカデミー賞作曲賞をもたらした『ヘイトフル・エイト』(2015年)の監督、クエンティン・タランティーノは「彼は現代のベートーベンだ!」と絶賛。これまで『1900年』(1976年)のテーマを何度も演奏したという坂本龍一は、今回のコンサートに際して「僕はこれからも先生の音楽を聴き続け、大きなインスピレーションを得るでしょう」とコメントを寄せている。モリコーネの音楽の魅力とはどこにあるのか? コンサートの内容を紹介する前に、彼のキャリアについて振り返っておこう。

揺るぎない美意識が貫いたモリコーネの音楽

エンニオ・モリコーネ『オフィシャル・コンサート・セレブレーション』

 1928年11月8日。オーケストラのトランペット奏者だった父親のもとにローマで生まれたモリコーネは、子供の頃から音楽に囲まれて育った。イタリアの名門国立音楽学校、サンタ・チェチリア音楽院に12歳で入学。クラシック音楽や作曲を学ぶ一方で、ジャズ・バンドにトランペット奏者として参加するなどモダンな音楽にも興味を示し、卒業後は現代音楽の作曲家を目指した。ところが、なかなか認められず、家族を養うためにポップスの作曲やテレビや映画のサントラを手掛けるようになる。それはモリコーネにとって屈辱的なことだったが、この挫折が新しい扉を開くことになった。

 作曲家としての転機となったのは、小学校の同級生だったセルジオ・レオーネ監督の映画『荒野の用心棒』のサントラを手掛けたこと。映画が大ヒットして脚光を浴びたモリコーネは売れっ子になり、ウエスタン、サスペンス、人間ドラマなど、ジャンルを越えて様々な映画のサントラを次々と手掛けた。やがてハリウッドから声がかかるようになり、『ミッション』(1986年)や『アンタッチャブル』のサントラが次々とアカデミー賞にノミネート。イタリアを代表する映画音楽作曲家の地位を揺るぎないものにして、国際的に活躍をするようになる。

 そんなモリコーネの音楽の魅力は、豊かな音楽知識と実験精神にある。モリコーネはアカデミックな教育によって得られたクラシックや現代音楽の手法を映画音楽に活かしながら、エンターテインメントの仕事を通じて親しみやすいポップセンスを身につけた。出世作となった「荒野の用心棒」のテーマ曲を聴けば、モリコーネらしさがすでに息づいていることがわかる。口笛や鐘の音といった楽器以外の音を効果的に使い、エレキギターというポップスの要素を加えつつ、曲の構成はオーケストラのようにシンフォニック。楽器のようにコーラスを使うのもモリコーネの特徴だ。クラシックの影響が強かった従来の映画音楽に比べて、モリコーネのアレンジは斬新だった。

 そして、そんな独創的なサウンドと、崇高なまでに美しいメロディが融合しているのがモリコーネ・サウンドの魅力。『ミッション』には宗教音楽を思わせる荘厳な雰囲気が漂っているし、『ニュー・シネマ・パラダイス』は胸を締めつけるように叙情的でノスタルジックだ。クラシカルでモダン。エレガントでアヴァンギャルド。相反する要素を融合する柔軟な感性と、そこに貫かれた揺るぎない美意識がモリコーネの音楽に独自の輝きを生み出してきた。『エンニオ・モリコーネ「オフィシャル・コンサート・セレブレーション」』は、そんなマエストロの音楽の魅力を最高の環境で再現する試みだ。

 今回のコンサートには、東京フィルハーモニー交響楽団に加えて、これまでモリコーネの音楽に関わってきた名だたる音楽家が集結。総勢140名ものオーケストラで、モリコーネによって細部まで緻密に計算されたスコアをオリジナルに忠実に演奏する。オーケストラを指揮するのは、モリコーネの息子、アンドレア・モリコーネだ。アンドレアもまた父親同様に作曲家/指揮者で、映画音楽の世界を中心に活躍している。『エンニオ・モリコーネ「オフィシャル・コンサート・セレブレーション」』は、エンニオが亡くなる前から親子で温めていたプロジェクトだった。モリコーネはコンサートに乗り気で、亡くなる前に選曲をして曲順も決めていたという。そして、今回のコンサートの大きな特徴は、演奏する音楽に合わせて巨大スクリーンに映画の名シーンが上映されること。映像と音楽を巧みにシンクロさせることで、映画とコンサートをミックスしたような特別な体験を味わうことができるのだ。これはモリコーネにとって初めての試みで、もし、自分が指揮できなくなった時はお前に任せる、とアンドレアに伝えていた。それほどモリコーネは息子に信頼を寄せていたのだ。

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