『エルピス』は現実ともリンクする? 長澤まさみ、渡辺あやらのタッグに期待したいこと

 テレビドラマを観るのは日々の楽しみだし、筆者の場合、仕事でもあるけれど、「フィクションを楽しんでいる場合じゃない」という緊張を感じることが増えた。この3年ずっと、新型コロナウイルスの大流行で社会は非常事態にあったし、今年に入って日本と国境を接するロシアが戦争を起こした。夏には元首相が暗殺されるというショッキングな事件が起こり、10月になってからも世界経済には恐慌になりそうな危うさが漂っていて、ちっとも心が落ち着かない。そんなときに、ドラマの世界ではみんなが優しい人でキャッキャウフフしている職場の様子や、すぐに打ち解け“ズッ友”になれちゃう若者たちの青春を見ても、ニュースとの落差がありすぎて、内容が頭に入ってはこないのだ。

 今、観ていて心が震えるのは、厳しい現実から目を逸らさずに描くリアルストーリー。7月クールでは、コロナの影響で失業したキャバ嬢が宅配ドライバーになる『あなたのブツが、ここに』(NHK総合)が出色だった。リアルすぎて、まるで同局の『ドキュメント72時間』のよう。宅配の集荷センターやキャバクラにいる無名の人のドラマは現実の地続きに思えた。また、『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)はコロナ禍前が舞台だが、現代の情報格差や経済格差で負け組とされる人々の誠実な生き様や、それを小馬鹿にする勝ち組トリックスターの耐えられない軽さを描いた。

 今回の秋ドラマでは、地方の救急医療の置かれたシビアな状況を丁寧に描く『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系)や、実話を基にシングルマザーと漁業協同組合の攻防戦を展開している『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)がリアルで見ごたえアリ。そして、10月24日にはいよいよテレビ局を舞台にした『エルピス ―希望、あるいは災い―』(カンテレ・フジテレビ系)が始まる。『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)の佐野亜裕美プロデューサー×『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合/以下『今ここ』)の渡辺あや脚本×『共演NG』(テレビ東京系)の大根仁監督×長澤まさみ主演という座組が期待値を高めているが、ストーリー上、このドラマが目指しているゴールはどこなのだろう。

 このドラマも時間軸はコロナ禍が始まる前。大洋テレビのアナウンサー・恵那(長澤まさみ)は、入社以来、報道に軸足を置いていたが(おそらく将来は夜のニュース番組の看板キャスターと期待されていたのでは)、週刊誌にスキャンダル写真を撮られ、深夜の情報番組のMCに左遷された。その番組『フライデーボンボン』の新人ディレクター・拓朗(眞栄田郷敦)は、坊ちゃん育ちで大学までエスカレーター式で進んだ苦労知らず。そんな彼が、連続殺人事件の犯人とされ死刑判決を受けた男・松本(片岡正二郎)が無実である可能性を知り、恵那に自局で取り上げたいと働きかける。恵那は、ニュース番組にいた頃、冤罪についても取材していたが、それがいかに重い責任を伴うかを語り、拓朗の要請をいったんは断る。拓朗は、自分の新入社員時代の指導係であった報道部のエース・斎藤(鈴木亮平)にも相談するが……。

 第1話のあらすじを読むと、今後は拓朗と恵那が組み、冤罪である決定的な証拠をつかむなり真犯人を見つけるなりして、誤認逮捕を暴く展開になるのではと予想できる。若い女性ばかりを狙った10年前の連続殺人事件。7月クールの『初恋の悪魔』(日本テレビ系)では若い男性が3人殺された事件の真犯人は、逮捕された容疑者たちとは違う人物だった。他にも『最愛』(TBS系)や映画『死刑に至る病』など、冤罪をめぐる物語はたくさんあるが、『今ここ』で大学の権威を守ろうとするばかりの理事会を「腐っている」と断言した渡辺あやが、どんな真相を用意しているのか。そして、『今ここ』もそうだったように、それは現実でも起こった、または起こりうることであるはずだ。

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