NHK土曜ドラマは傑作続きに 『一橋桐子の犯罪日記』が描く“娑婆”の世界の面白さ

 「隠れ闇金」の寺田(宇崎竜童)は、笑顔の裏に深い孤独を隠して生きていた。憧れの人・三笠(草刈正雄)の住む見晴らしのよい部屋は、かつての栄光の象徴であるトロフィーがいくつも飾られていたが、一方で、愛するフィアンセに裏切られたショックで部屋は散らかり、荒れていた。いつでも完璧だった知子も、遺された句帳の中で、桐子にも言えない「罪」の存在に怯えている。

 弱いのは桐子だけではないのである。誰もが生きることに対する不安と孤独を抱えている。「私たちには価値があります。私たちと一緒に過ごしたければ、男性にはその対価を払ってもらわなくては」と言う薫子改め小池ゆかり(木村多江)も、強くならなければならなかった理由がきっとあるのだろう。

 桐子はいつも、黄色に輝く夢を見て、一生懸命手を伸ばす。知子のブランケットと同じ、黄色の夢。思い出の中の知子、知子と食べた鍋の温もり、ニセ札、札束。それは、何度手を伸ばしても、手からすり抜け、光となって消えてしまう。でも、桐子は気づいていないけれど、前述した冒頭の回想の場面における祝祭のような光景はずっと続いているような気がするのだ。桐子と雪菜が心を通わせる公園には何頭ものゾウの遊具があり、桐子が子供の頃の美容師になる夢を思い出す場面には大きなタコの形をした遊具がある。その温かみのある「動物」繋がりの描写は、彼女がずっと、かつて抱いた幸せの只中にいるということを、暗に伝えているように思う。

 アニメーションの雨風だけでなく、降りかかってくるものの毎話ちょっとずつの変化を見るのも楽しいオープニングにおける、一生懸命塀をよじ登るチャーミングな桐子さんは、その先で何を見て、何を思うのか。本当に「塀の向こうの極楽」を見るのか、こちら側を見るのかはまだわからないけれど、一緒に覗いてみたい。

■放送情報
土曜ドラマ『一橋桐子の犯罪日記』
NHK総合にて、毎週土曜22:00~22:49放送(全5話)
出演:松坂慶子、岩田剛典、長澤樹、片桐はいり、宇崎竜童、木村多江、由紀さおり、草刈正雄ほか
原作:原田ひ香『一橋桐子(76)の犯罪日記』
脚本:ふじきみつ彦
音楽:長谷川智樹
制作統括:高橋練(NHKエンタープライズ)、清水拓哉(NHK)
プロデューサー:宇佐川隆史(NHKエンタープライズ)
演出:笠浦友愛、黛りんたろう、加地源一郎
写真提供=NHK

関連記事