『silent』優しさと脆さを併せ持つ鈴鹿央士 アンビバレントな関係に心動かされる
「名前を呼んで、振り返ってほしかっただけなのに」。『silent』(フジテレビ系)の第3話は、湊斗(鈴鹿央士)の視点から物語が紡がれる。紬(川口春奈)とどんな恋をしてきたのか、想(目黒蓮)とどんな友情を築いてきたのか。優しすぎて壊れてしまいそうな湊斗の姿に胸を締め付けられる回となった。
湊斗は、紬と想が一緒にいるところを目撃してしまう。思わず想に駆け寄るが、想は振り返ることなく去ってしまった。その後、紬と湊斗はギクシャクするが、光(板垣李光人)の支えもありゆっくりと元の関係に戻ろうとしていた。だが紬はバイト中に偶然、想と出会うことに。バイトが終わるのを待って、想は紬に「湊斗に悪いから、もう 2人で会うのはやめよう」と伝える。すると紬は「今好きなのは、湊斗。佐倉くんは違う」と話し、想と会うことをやめなくても紬と湊斗の関係は変わらないと伝えるのだった。
高校時代のこと、紬と湊斗が付き合いだした頃のこと、回想シーンを多く織り混ぜながら3人の物語は進む。湊斗は、紬が想を見つめ“恋に落ちる瞬間”にも気付いていた。その恋を紬と想が育む姿も見守っていた。紬が仕事で行き詰まり苦しんでいた時は手を差し伸べた。湊斗はこうしていつだって、紬が幸せな時間を過ごせるよう、側に寄り添い続けていたのだ。たとえ恋の相手が自分であっても、そうじゃなくても。だからこそ、湊斗がどれだけ強い優しさをもってしても変えられない現実の残酷さに胸が痛む。
鈴鹿が表現する湊斗はその優しさと、表裏一体に脆さも併せ持つ。想を大切に想うがゆえに耳が聞こえないことをなかなか受け入れられないことや、想にフラれた紬と付き合うことなど、些細なことで自分を責めてきた。こうして痛みを背負う人物だからこそ、湊斗は他者の気持ちに寄り添うことができるのだろう。
その湊斗が第3話では感情をあらわにし、想の名前を呼んだらまた振り返ってくれるんじゃないかと期待を捨てられない姿が印象的だった。湊斗は高校時代のように聞こえないふりをしているだけで、そのうち笑顔で振り返ってくれるんじゃないかと何度も期待を込める。わざと後ろにまわりこみ、背後から声をかけ続ける少々ひねくれた感情表現は、鈴鹿の手によりかけがえのないほどの深い愛に昇華された。