『PUI PUI モルカー』が描く社会的なテーマ 続編『DRIVING SCHOOL』に感じた可能性

 すでに放送された「ビル倒しちゃった!」では、主要なモルカーと、そのドライバーたちが、ドライビングスクールに通わなければならなくなった顛末が描かれていく。

 初心者マークをつけたモルカー“アビー”は、前シリーズでレースに出場する際、ロケットエンジンを搭載させられて事故を起こしたが、ここでもロケットを身につけたことで大惨事を引き起こすこととなる。ちなみに、この改造をおこなったのはアビーの現ドライバーであるオタク青年。彼を演じているのは、『ポプテピピック』で「8bit」ゲーム映像のパロディ作品を担当した、映像作家の山下諒である。

 前シリーズの多くのケースで、モルカーを利用する人間たちの愚かしさが描かれたように、ここでも人間の行動が原因で、取り返しのつかない事態が発生してしまうわけだが、今回の大惨事は人間だけでなく、モルカーの側の過失や不運も重なったことで起きている。その後の裁判で、事故発生現場にいたモルカーやドライバーたちは連帯責任として、山の上のドライビングスクールに送られ、アビーに加え、“シロモ”、“テディ”、“チョコ”、“ローズ”、そして“ポテト”とドライバー(見里瑞穂)らが教習を受け直すこととなるのだ。

 この怪しげなドライビングスクールは、第2話「白塗りモルカーの逆襲」で、初めてその姿を見せる。教習用のコースに興味津々のモルカーたちは、最初こそはしゃいでいるが、そんな行為を制止し、厳しく怒鳴りつける鬼教官の登場にモルカーたちは怯え、涙目になってしまう。

 それだけでなく、鬼教官は教習生となったモルカーたちに「ブラック校則」を押し付け、装飾を外させて全て白塗りにしようとする。このドライビングスクール、やはりまともではない……! この危機は、モルカーやドライバーたちの抗議によって回避されることになるが、教習生の受難は始まったばかりである。

 この第2話までで描かれたのは、社会的責任と管理社会をめぐる問題だ。大事故を起こした責任は誰かが取らなければならないのは確かではあるが、だからといって、人権(モルカー権)を無視して、人格(モルカー格)を変化させようとまでするのは、権力の濫用による横暴ではないのか。自分たちを過度にコントロールしようとする一方的な圧力に対しては、一致団結して毅然と戦う必要があることが、ここでは表現されているように感じられるのだ。

 こういった、人権を犯す管理への反発は、『暴力脱獄』(1967年)や『アルカトラズからの脱出』(1979年)、『女囚さそり』シリーズなど、刑務所を舞台とした、反権力的でパンクな姿勢の映画などで描かれてきたものだ。本シリーズは、あえて舞台を狭めることで、そういったテーマ性を取り入れようとしているのかもしれない。

 まだまだシリーズの序盤である現在、今後の展開は謎に包まれているが、これまで人間の愚かしさや身勝手さが暗示されてきたシリーズが、ここで人間による管理と個人の責任のバランスというテーマに移行するのだとすれば、シリーズの整合性が生まれ、前シリーズのテーマもさらに明確になっていく可能性がある。「モルカー」の生みの親であり、本シリーズも手がけている見里朝希監督は、これまでのアニメーション作品で、社会的なテーマを扱ってきている作家である。ここでより強いメッセージを発信することは、大いに考えられるところだ。

 そしてもちろん、そんなテーマとは関係なく、ドタバタ劇の面が強調されていく展開も考えられるだろう。『PUI PUI モルカー』というシリーズが、どんな作品として映像史のなかに刻まれていくかについては、まさに今後の展開にかかっているといえるのだ。

■放送情報
『PUI PUI モルカー DRIVING SCHOOL』
テレビ東京「イニミニマニモ」内にて、毎週土曜7:00〜放送
原案・スーパーバイザー:見里朝希
監督:小野ハナ(UchuPeople)
アニメーター:小川翔大、高野真、三宅敦子、垣内由加利、当真一茂、阿部靖子、小西茉莉花
美術:UchuPeople、アトリエKOCKA、パンタグラフ、スタジオビンゴ
音楽:小鷲翔太
音響:小沼則義
©︎見里朝希/PUI PUI モルカーDS製作委員会
公式サイト:https://molcar-anime.com/
公式Twitter:https://twitter.com/molcar_anime
公式Instagram:https://www.instagram.com/molcar_anime/

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