『舞いあがれ!』は“当たり前を見つめ直す物語” 制作統括に聞く、福原遥ら役者陣の魅力
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』が10月3日よりスタートとなる。ヒロインを務める福原遥の笑顔と爽やかなビジュアルのイメージそのままに、第1週から視聴者に元気を届ける仕上がりとなっている。制作統括の熊野律時に、本作に込めた思いやキャスティングの意図を聞いた。
福原遥はひだまりのようなヒロイン
ーーヒロインの岩倉舞(福原遥)は大空に夢を抱くキャラクターですが、そもそもヒロインと空を結びつけたアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?
熊野律時(以下、熊野):本作では「向かい風を受けてこそ飛行機は空高く飛べる」というキャッチコピーを掲げています。ヒロインの岩倉舞が様々な困難にも下を向かず、空を見上げて進んでいく成長物語です。五島列島を舞台の一つに選んだ大事な要素として、ばらもん凧が出てきます。凧というのは、向かい風を受けないと空に上がることはできない。そのことを最も象徴的に表している存在なのかなと。五島には、ばらもん凧を子供の健やかな成長を願って上げるという風習があることを知りまして、まさにこのドラマの目指している空高く上がっていこうとする物語のテーマと一致するなと感じました。向かい風というのには、逆境やつらいことといった要素も含みつつ、舞に吹いてくる風はいろんな人の手助けだったり、関係性や絆が彼女を高く上げていく風になるというような意味でも捉えております。最初に脚本の桑原(亮子)さんと話を始めたのは一昨年(2020年)でした。どんなヒロインにするかというところで、桑原さん自身が飛行機が好きということもあって、ヒロインが空を見上げたり、空に向かっていく前向きな希望のイメージが今の時代にメッセージとして大切なものになるんじゃないかという話をしたんです。コロナ禍で飛行機が全く飛ばなくなった時期があったりして、行きたいところに自由に行くことができるのというのは実は貴重なことで、そういったことを見つめ直すことも大事だと感じました。舞が飛行機に乗って飛べるようになる「航空学校編」について、脚本を作る上で取材をしていても、飛行機を飛ばすということは危険とも隣り合わせでとても大変なことなんだなと改めて感じました。人が空を飛べるようになったのは今から100年ぐらい前の話で。それが今では意識しないくらいに、日常の中で当たり前になってしまっている。そこをもう一度見つめ直すことは、今の時代に力強いメッセージになるんじゃないかとお話したのがそもそもの発端ですね。舞が五島の島で暮らす人たちの思いをしっかり受け止めて、その中でゆっくり少しずつ成長していくような、柔らかく、優しい物語。それでも確実に前へ進んでいく、そういうドラマとして今の現代にお届けしていく意味があるのかなと思っております。
ーー本作におけるヒロイン像と舞を演じる福原遥さんの魅力を教えてください。
熊野:福原さんに舞を演じていただいていて、今回のヒロインのキャラクターにぴったりだなというのを今も感じています。舞は先頭を切ってぐいぐい周りを引っ張っていくというヒロイン像ではなく、周りにいる人たちのことを感じながら、もっと幸せになれることってどんなことだろうと一緒になって見つけていく、どうしたら乗り越えていけるんだろうと一緒に考えて進んでいける、そういうヒロインでありたいと強く思っています。一人で頑張って上がっていくのではなく、いろんな人と手を携えて空高く上がっていくイメージを大事にしようと桑原さんとも話しています。これは桑原さんがよく言っていることなんですけど、舞は常に方向確認をしていく人、前に進んでいく時にちゃんと横や後ろにいる人をきちんと見て、一緒に来れているか、そういうことも気にしながらみんなで進んでいけるようなヒロインなんですと。その人が何を思っているのか、何を感じているのかを受け止めつつ、この人も一緒にできることってなんだろうというような、この世界で生きづらさを抱えている人たちもいるーーそれは自身の中にある部分だと思うんですけど、そういうところにもしっかりと目を向けて、一緒に困難を乗り越えていく。関わる人たちの様々なペース、生き方を尊重しながら少しづつ前に進んでいく、そんなイメージのヒロインであることも大事にしているところです。いろんな人が様々な事情を抱えていて、一緒に幸せになるにはどうしていったらいいんだろうということを、空を飛ぶことにも象徴させながら進んでいくヒロインでありたいなと思っています。福原さんはまさに今回目指しているヒロイン像を体現しているなと思います。柔らかい温かさを常に持って現場に入ってくれているので、それがスタッフやキャストみんなに伝わっていて、現場を引っ張っている……というよりは福原さんが真ん中にいて温かな陽だまりができている、一緒に集まってニコニコお茶を飲んでいるような、そんなイメージ、空気感なんですよね。和やかに楽しくおしゃべりをしながら、ふと気がつけば本番になっているような雰囲気の撮影現場になっていて、そこは福原さんが持つ魅力だなと。それは映像としても出ているなと思っています。
ーー舞の子供時代を演じる浅田芭路さんの起用理由を聞かせてください。
熊野:浅田さんは219人が参加したオーディションの中でお会いして決めました。幼少期の舞はヒロイン像の出発点というところで、人の気持ちを敏感に分かってしまうが故になかなか自分の思っていることを言い出せない、行動に出せないという部分を抱えているところから、五島で過ごすうちに少しづつ変わっていくというのがスタート地点になっています。いろんな人との関わりの中で開かれていく喜びや明るい笑顔だけでなく、彼女が抱えている生きづらさを含めて、きちんと芝居としても表現できる方をオーディションで探していく中で、浅田さんはチャーミングな笑顔と同時に自分のことが言い出せない、ある種の影の部分の両方ができる方だなと強く思いました。
ーー五島列島ともう一つの舞台に東大阪を選んだ理由はありますか?
熊野:モチーフになっている飛行機は、「ものすごい数の部品と職人による技術の結晶体が空を飛んでいるということなんですよね」と、桑原さんから出てきたんです。空を飛ぶことを目指すヒロインの原点にものづくりの町・東大阪があったら素敵なんじゃないかと思い、舞の家はネジを作る町工場という設定になりました。東大阪は町工場としては中小企業の密度日本一という話もあったので、自分たちの技術を積み重ねてきた上で、時代の影響をもろに受けてしまう製造業ということも含めて、挫折と再生の物語としてヒロインのバックグラウンドにある大事な要素を持っているなと感じ、東大阪を舞台にしようと思いました。物語は1994年(平成6年)から始まりますが、町が変化する大きな節目の時期であるということを踏まえて、この年代設定になりました。バブルの時代、大量生産の時代が終わって、海外の利権といった大きな転換点が押し寄せている苦しい時期。最終的には現代辺りの年代までいくつもりではありますので、そこに辿りつく上でどこからスタートするのが、これからヒロインに起きてくることとして描きたい部分と合致する年代なのかを考えての1994年でした。