思うに前田が演じるキャラクターの魅力は、完全無欠に見えて実は完璧ではないところにあるのではなかろうか。無機質な人柄が徐々に帯びてくる熱に私たちは溶かされていく。『江戸モアゼル〜令和で恋、いたしんす。〜』（読売テレビ・日本テレビ系）で演じたカリスマ社長の鳥居直樹もそう。何事にも合理的で人を利用することしかできなかった彼が、江戸からタイムスリップしてきた仙夏（岡田結実）に恋をして良い意味で崩れていく姿が何とも愛おしい。人を馬鹿にするような笑顔も少しずつ愛情のあるものへと変わり、最終的に仙夏を好きな人のもとに送り出す時の悲しみを抑えた笑顔に着地していく。

　必ずしも人は楽しいから、嬉しいから笑うのではない。諦念からこみ上げてくる笑みだったり、哀しみや怒りを抑えるための笑顔だったり、誰かに向ける愛情の形だったり、いろんな意味が込められている。前田はそういう複雑でおかしみのある人間の内実をしっかり映し出してくれる役者だ。

　『ちむどんどん』で演じる智は裏表のない好青年だが、けっして完璧な王子様ではない。前田は恋愛に関しては不器用で、情けないところも多々ある智を恥じらいなく演じてくれている。特に歌子（上白石萌歌）に対してはもともと姉の暢子に長年片思いしていたという引け目もあり、素直に思いを伝えることができない智。第24週では、そんな2人の恋の行方がついに描かれそうだ。

　ちなみに7月期のドラマでは、町田啓太、重岡大毅、坂口健太郎、中島裕翔、竹内涼真ら今年30歳前後となる俳優陣が主演を飾っていた。彼らと同世代である前田にも本作をきっかけにさらなる飛躍を遂げ、民放ドラマでもメインの役どころとして起用されてほしい。

■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合：午前8:00〜8:15、（再放送）12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K：7:30〜7:45、（再放送）11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演：黒島結菜
作：羽原大介
語り：ジョン・カビラ
沖縄ことば指導：藤木勇人
フードコーディネート：吉岡秀治、吉岡知子
制作統括：小林大児、藤並英樹
プロデューサー：松田恭典
展開プロデューサー：川口俊介
演出：木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供＝NHK