『HiGH&LOW』は出演者全員が相乗効果で輝く一作に 役者・観客・製作者の“熱”の伝播
2019年に映画『HiGH&LOW THE WORST』が公開されたとき、その最初のカットに驚いた。スキンヘッドの男たちが鬼邪地区の地下鉄の車両からぞろぞろと降りてきて、その先頭に志尊淳演じる上田佐智雄が立っていたからだ。『HiGH&LOW』はLDHが製作したエンターテインメントであり、主役はあくまでもTHE RAMPAGE from EXILE TRIBEの川村壱馬が演じる花岡楓士雄であるから、彼が最初に登場すると思っていたからこその驚きであった。
今回の『HIGH&LOW THE WORST X』でもまた、その最初のカットは、NCT 127で活躍する中本悠太が演じる瀬ノ門工業高校の須嵜亮が空を仰ぎ見るものであった。そのカットを見て、LDHの懐の大きさを感じてしまう。
事務所が製作する作品であれば、事務所に所属する人間が目立ってなんぼものもと考えるのが世の常というもの。それを、外部から来た俳優やアーティストからスタートする映画があることに驚かされた。
今回であれば、その外部から迎えられたもうひとつの中心人物は、川村や吉野北人と同じく、アーティストとして活躍する中本悠太やBE:FIRSTの三山凌輝である。本来ならば、ライバルとしてバチバチに火花を飛び散らす相手であるからなおさらだ。
しかし、そのやり方が間違っていないのは、映画を見れば一目瞭然だ。むしろ、同じ志を持った4人が同じ映画の中に存在することで、今回のテーマの“クロスオーバー”や“上も下もない”というワードの説得力が増した。今回は、4人が歌う劇中歌「Wings」にまで昇華した。
今回の上映の舞台挨拶に、急遽参加した中本悠太が、日本で高校生活を送れなかった分、この作品でかけがえのない仲間と出会い、共にひとつの作品に打ち込んだことで“青春”を取り戻したという内容のことを語っていたが、こうしたリアルの部分での“ストーリー”を知った上で、映画で「Wings」が流れるシーンを観ると、より心を動かされるものがあった。
そもそも、『HiGH&LOW』シリーズというのは、LDHではない外部のアーティストや俳優とともに成長してきた作品でもあった。鬼邪高校の番長である村山良樹が映画の中で存在感を表すのと同時に、彼を演じる山田裕貴が俳優としてめきめきと当確を表す姿は、まさにフィクションと現実の姿が重なるようであったし、『THE WORST X』では、同じく鬼邪高校の轟洋介が物語の核を担う人物となり、彼を演じる前田公輝自身もそれと同じタイミングでNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』に出演しているのも、『HiGH&LOW』シリーズのファンであれば感慨深いことだろう(『ちむどんどん』には山田裕貴も)。
このシリーズでは、自らが前のめりに作品のために行動し、少しでも爪痕を残そうとしたものが、正当に観客に評価される。前作の『THE WORST』で、「まいど、殺し屋鳳仙だす」などのセリフで沸かせた小田島有剣役の塩野瑛久は、今やLDHの所属になり、『THE WORST X』では、やはり物語に欠かせないキャラクターとなった。
そして、前回、熱くバトルを繰り広げた轟洋介と小田島有剣が、実は趣味の釣りを通じて仲間となっているという展開に思わずにやりとしたファンは多かったことだろう。
演じる側の熱を、ファンが受け取り、またファンの熱を映画が受け取り、生き物のように成長しているのが、本シリーズの醍醐味ともいえる。