『純愛ディソナンス』はただの“ドロドロ”作品ではない 役者陣の好演が光る“丁寧”な愛憎劇

 『純愛ディソナンス』は、フジテレビ系「木曜劇場」で放送中の、オリジナルドラマである。放送が始まる頃には、「純愛×ドロドロの、純ドロ・ラブサスペンス!」と紹介する番宣を見て、正直なところ、「自分はターゲットではないかもしれない」と考えていた。

 しかし、始まってみると、ドロドロする要素や人間関係、展開がたくさん盛り込まれている中にも、もっとじっくりと見せるようなトーンを感じた。

 ドラマは、主人公の新田正樹(中島裕翔)がピアノの講師の仕事を失い、大学の先輩である小坂由希乃(筧美和子)が失踪したことによる穴を埋めるような形で、高校の教師となるところからスタートする。正樹はそこで出会った生徒の和泉冴(吉川愛)と次第に心を通わせるようになっていく。実は小坂は正樹の亡くなった兄の恋人であり、失踪には学校の同僚教師が関わっていた。

 冴は母親の静(富田靖子)から依存されており、早く自立したいと考えている。そんな中、次第に教師の正樹には、なんでも話せるようになり、正樹も弱さを冴には見せられるようになる。ふたりの間にあるものは、恋とも呼べるものかどうかもあやふやなものだったが、それを学校や世間は許すはずはなく、母親が騒ぎ立てたことや、正樹の同僚の地味な教師・愛菜美(比嘉愛未)の差し金によって、ふたりは離れ離れになっていく。

 物語としては、次から次へと事件が巻き起こるが、ふたりの気持ちが丁寧に描かれていて、「ドロドロ」というよりも、「純愛」の面が際立っているように思えた。ふたりが離れ離れになるとき、自転車でおいかける冴の姿が、同じく生徒と教師の恋を描いた『中学聖日記』(TBS系)を思い出させた。

 第3話からは舞台が5年後に移行。冴は母親の元を離れ、高校の友人たちとシェアハウスで暮らし、とあるアプリ会社でアルバイトをしている。正樹は学校を辞め、義父・賢治(光石研)が経営しているモノリスエステート社で働いているが、その会社の仕事はあきらかに怪しく、正樹も手荒なことも辞さない。そして、賢治の娘である正樹の妻は、学生時代に冴との仲を引き離す原因を作った愛菜美であった。

 ここから、またドロドロ要素がてんこ盛りになっていく。小説家となった愛菜美は、冴の働くアプリ会社で仕事をすることになり、彼女と再会。しかも、アプリ会社の社長の路加雄介(佐藤隆太)は、モノリスエステートの社長である賢治に恨みを抱いており、その目的から愛菜美と関係を深めたり、また冴と正樹の恋を再燃させようと正樹にも接近、彼らをふたりきりにしようと画策したりもする。

 あらすじを詳細に書き起こしたが、次から次へとさまざまなことが起こるわりには、その展開は整理されている。そして、その中に存在する、正樹と冴の感情も、非常に丁寧に描かれている。都合のよい「胸キュン」なシーンが(胸キュンシーンがいけないというわけではない。それに全部、感情の変化を頼りきりでは都合がいいという意味である)散りばめられているのではなく、段階を追って気持ちが近づいていったり、ときにお互いを思って自分の気持ちを押し殺すのである。第7話の最後になってようやく正樹と冴のキスシーンが登場するぐらいだ。

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