『ちむどんどん』矢作は決して“悪役”ではない 問われる暢子の経営者としての決断力

 ついに暢子(黒島結菜)念願の沖縄料理屋「ちむどんどん」が開店する朝ドラ『ちむどんどん』(NHK総合)。オープンまで1週間に迫っているが、保健所や消防署への手配が済んでいない点で、すでに運営状態が不安で仕方ない。

 偶然再会した矢作(井之脇海)をシェフに迎えた暢子。「アッラ・フォンターナ」で長年働いた彼女は自身の結婚披露宴にて独立することを決意したが、それはイタリアンではなく自身の原点回帰とも言える故郷の味、沖縄料理の店だった。突拍子もないように思えるし、シェフの二ツ橋(髙嶋政伸)が惜しそうに言っていたのも理解できるが、思い返せば暢子はこれまでいくつもの局面を“沖縄料理”で乗り越えてきた。

 週タイトルにもなってきた料理の数々が心に残る。ある意味、『ちむどんどん』とは幼少期に沖縄料理しか食べたことがなかった少女がレストランで洋食に出会い、洋食の料理人を目指して願いを叶えるも、最終的に沖縄料理に帰結するという物語なのかもしれない。

 ただ、彼女がそこに至るまでに学んだことで無駄なことはなかったはずだ。今、この独立のタイミングはこれまでのその学びをいかに生かせるか、暢子の成長が図られる時である。問題は、現時点で残念ながらその様子が窺えないことだ。

 矢作は大きな即戦力となり、店の準備に貢献している。今まで作ったことのない沖縄料理を短期間でマスターする時点で頼もしいわけだが、暢子に対して暴言を吐いたり、非協力的なキャラクターとして描かれたり、何かと“問題”として扱われているように思える。確かに態度はひどいものだが、もともと「アッラ・フォンターナ」で働いている時から忙しい時に後輩に怒鳴ったり、暢子に意地悪をしたりと彼が人格者として描かれたことはない。

 店の権利書を盗み、あれだけ迷惑をかけたのにもかかわらず、その後暢子の計らいでオーナーの房子(原田美枝子)に再会した時も「謝るつもりはない」と言っていたのだ。その時点で視聴者に倫理観を問うキャラクターになってしまったように思うが、暢子と店をやることになってからというもの、“正論キャラ”としてどんどん暢子のダメなポイントに切り込んでくる。

 暢子は自分が経営者であるにもかかわらず、給料に関しても「言い値でいい」と基本的にふんわりしていて判断を人に任せていた。その後、矢作は自分が雇われた「シェフ」という領域以外の仕事に関しては賃金をもらっていないためやらない、というスタンスでいると「私が頑張るから……」と言って、周囲の同情を買っていた。しかし、矢作も口すっぱく「誰か他の人を雇え」と言い続けているのに、それを聞かない。そこに第102話で歌子(上白石萌歌)がバイトとして助けてくれる展開になったが、果たしてこの3人体制で店はやっていけるのだろうか。歌子は病弱、暢子は産休が確定。どう考えても、シェフ・矢作のワンオペになる日が出てくる可能性が高いのだ。

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