北米映画市場が半年ぶり低水準 『トップガン マーヴェリック』は破竹の勢いで歴代5位目前

北米映画市場が半年ぶり低水準

 8月26日~28日の北米週末興行は、夏休みの大作ラッシュが落ち着き、学校が始まったせいもあろうか、2月以来の低水準となった。3日間で北米映画市場が稼ぎ出した金額は約5270万ドル、コロナ禍の影響がいまだ甚大だった昨年同週よりも約16%低いという。

 第1位に初登場したのは、ソニー・ピクチャーズ製作のヴァンパイアスリラー『The Invitation(原題)』。3日間で700万ドルという初動成績は、ランキングの首位を射止めた作品としては2021年5月の『スパイラル:ソウ オールリセット』の875万ドルを下回るものだ。ただし製作費は1000万ドルなので、コスト回収の観点では勝算がある。

映画『The Invitation(原題)』予告編

 主人公の女性イヴィーは、唯一の親族である母親を亡くした後、本当は従兄がいたことを知る。イギリス郊外の裕福な一族と血縁があったことを知ったイヴィーは、従兄に招かれて結婚式に参列することとなった。そこで出会った紳士ウォルターに惹かれるイヴィーだったが、やがて家族の歴史に秘められた暗い過去が明らかになり……。

 主演は『ワイルド・スピード』シリーズや『ゲーム・オブ・スローンズ』のナタリー・エマニュエルが務め、監督はこれが長編第2作となる新鋭ジェシカ・M・トンプソン、脚本は『ポラロイド』(2019年)のブレア・バトラーが手がけた。観客の男女比は女性57%・男性43%で、35歳以下が全体の約7割を占める。Rotten Tomatoesでは批評家スコア26%・観客スコア54%、出口調査に基づくCinemaScoreでは「C」評価と、ホラージャンルとしても興行・評価ともにやや渋い発進となった。

 第1位の週末成績が700万ドルだから、もちろん第2位以下はこれよりも低い数字が並ぶことになる。もっとも夏の話題作が多数残っているため、トップ10はかなりの大接戦。数字が確定される段階で順位に変動が起こる可能性もある。

映画『Three Thousand Years of Longing(原題)』予告編

 しかし、映画ファンとして大いに心配なのは、『マッドマックス』シリーズのジョージ・ミラー監督による7年ぶりの新作映画『Three Thousand Years of Longing(原題)』の不調だ。本作はイドリス・エルバ&ティルダ・スウィントン主演のロマンティック・ファンタジーで、神話学者のアリシア(ティルダ・スウィントン)がイスタンブールを訪れ、精霊のジン(イドリス・エルバ)を解放することから始まる物語。ジンは“3つの願い”を叶えると提案するが、神話学者であるアリシアは大いに警戒し……。

 2022年5月に開催された第75回カンヌ国際映画祭で好評を得た本作は、鬼才ジョージ・ミラーの最新作とあって大きな注目を浴びていたものの、2436館という拡大公開ながら3日間で287万ドル、第7位での発進となった。製作費6000万ドルを投じた作品としては大失策で、業界内では宣伝不足を批判する声や、まずは小規模公開で口コミ効果を得るべきだったという指摘もある。Rotten Tomatoesでは71%フレッシュとまずまずの評価だけに、この滑り出しを引きずりながらただ消えていくのはあまりにもったいない。

 宣伝不足は『Three Thousand Years of Longing』だけでなく、第1位の『The Invitation』、そして第15位で初登場となったジョン・ボイエガの主演最新作『Breaking(原題)』にも共通して言えることだ。同作は北米902館の限定的な公開だが、経済的苦境に陥った元海軍兵が銀行を襲撃し、従業員を人質に立てこもるスリラー映画。批評家・観客ともに高い評価を得ているが、こちらも今後の興行的展開が注目される。

 米Deadlineは「宣伝に予算を投じるほど収入も大きくなるもの」「宣伝費を削りながら小規模映画を公開するという“実験”を続けるなら、それは映画館のためにも作品のためにもならない」と辛辣だ。いずれにせよ、最新作に観客の関心がさほど集まらず、公開中の作品にも劇的な回復が見られなかった結果が、この週末の(残念ながら規模の小さい)大接戦なのである。

 第2位は伊坂幸太郎原作&ブラッド・ピット主演『ブレット・トレイン』。前週の第3位から浮上し、3日間で560万ドル(前週比−30.2%)を記録した。米国興収は7820万ドル、世界興収は1億7360万ドル。いよいよ物語の舞台である日本での公開を9月1日に控え、ここからの変動にも期待がかかる。

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