『ONE PIECE FILM RED』ルフィの勇姿とウタの歌声は映画館でこそ “新時代”の意味を考える

 では、ルフィとウタに話を絞ると、なぜ今作では自由を愛する者であり、同じようにシャンクスからスタートした2人が対立したのだろうか。それはウタがウタウタの実の能力で、世界中の人々を現実世界から解放するという手段を選んだからだ。それは現代でいえば、インターネットの世界に入り込んで現実の生活を行わず、みんなが楽しく過ごしていく世界、と言い換えることもできるかもしれない。

 筆者はインターネットの世界が好きなので、ウタの理想に共感するところもある。お金や仕事から解放されて、映画やアニメや漫画などの娯楽と共に、好きなことだけをして生きていきたい……とだけ聞けば、ダメな大人そのものだ。しかし、これは近年注目を集めるビジネス用語のFIREと似た考えではないだろうか。肉体の支配から解放され、お金などの心配もない生活にこそ、真の自由があるとみる考え方もあるだろう。

 しかし、ルフィはそれを否定する。ルフィにとって自由とは、現実の困難や強敵に立ち向かい、それを打破して乗り越えた先にある。ウタの理想は、現実からの逃避という見方もできるし、何よりも住民たちにその世界にいたいかどうかを問いかけることさえしないのは、支配者がウタに変わっただけともいえる。2人は求める結果が同じだとしても、その過程が真逆といえるほど異なっている。

 本作を手掛けた谷口悟朗監督は『ダ・ヴィンチ』2022年9月号にて、より強い信念を持つ者が勝つというテーマを意識していていたと語っている。ルフィの強さというのは、折れず曲がらない信念にこそある。この信念のぶつかり合いこそが、今作の見せ場であり『ONE PIECE』の核となる部分の1つで、ルフィは筋の通った信念を見せつけたのだ。

 では、最後に最終章に入るとされている『ONE PIECE』において、今作はどのような今後の布石を投じたのか。その鍵はやはり「解放」、「自由」、「新世界」という言葉になるだろう。もちろん偉大なる財宝、ワンピースの正体はわからないが、おそらくはこれらの言葉が絡むようなものになるのではないか。

 色々と語ってはきたものの『ONE PIECE』の映画は3年に1度のお祭りである。ルフィの愛する「宴だ!」とばかりに、みんなで劇場に駆けつけて、鑑賞後は友人やネットの仲間たちと語り合うのが最も相応しい楽しみ方だろう。ウタの歌声とルフィの勇姿を、ぜひ仲間たちと共に目撃してほしい。

■公開情報
『ONE PIECE FILM RED』
全国公開中
原作・総合プロデューサー:尾田栄一郎(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:谷口悟朗
脚本:黒岩勉
音楽:中田ヤスタカ
キャラクターデザイン・総作画監督:佐藤雅将
声の出演:田中真弓、中井和哉、岡村明美、山口勝平、平田広明、大谷育江、山口由里子、矢尾一樹、チョー、宝亀克寿、名塚佳織、Ado、津田健次郎、池田秀一
主題歌:「新時代 (ウタ from ONE PIECE FILM RED)」Ado (ユニバーサル ミュージック)
配給:東映
(c)尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会
公式サイト:https://www.onepiece-film.jp

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