『鎌倉殿の13人』が突きつける“何を信じるか” 愛すべき弱さを持った源頼家に寄せて

 また、頼家の部屋の片隅にあり、彼が度々見つめている、政子と義時があげた「鎌倉殿に代々受け継がれるべきもの」であり「上に立つ者の証」である「ニセモノ」の髑髏も気にかかる。それが最初に登場したのは第3回、宗時(片岡愛之助)が連れてきた文覚(市川猿之助)がもたらしたもので、それをもって政子が渋る頼朝の背中を押し、挙兵を促したというエピソードが付随する。いわば「北条と頼朝の結びつきによって始まった全ての物語」を意味するものであり、「家」のしがらみを嫌う頼家がその歴史をよく知らないまま、象徴としてことさら大切にしているというのも実に興味深いのである。頼家が純粋な思いで「(比企と関係なく)一幡を後継ぎにする」と言ったところで、「家」の問題は否が応でも付きまとう。彼個人の思いは、いかに抗おうとしたところで、壮大な家の歴史の流れの中に巻き込まれずにはいられない。

 さて、第30回のタイトルは「全成の確率」。『真田丸』(NHK総合)においても豊臣秀次役を好演し、「秀次ロス」を巻き起こした新納慎也だが、全成もまた、なんとも愛おしい、できることならずっと観ていたいキャラクターである。全成・実衣(宮澤エマ)夫婦が少しずつ変化を見せ始めたのは、第25回で全成が、かつて恋のきっかけとなった実衣のラッキーカラー・赤を、頼朝に「忌むべき色」と伝えた経緯で、嫌がるそぶりを見せた頃からだ。それからの心のざわめきを、宮澤エマが思わずハッとするほどきめ細やかに演じていた。そしてようやく互いに分かり合い、身の丈の幸せを追い求めようとでもするかのような2人に安堵したつかの間、喜劇は悲劇へと転じそうである。

■放送情報
『鎌倉殿の13人』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアム、BS4Kにて、毎週日曜18:00~放送
主演:小栗旬
脚本:三谷幸喜
制作統括:清水拓哉、尾崎裕和
演出:吉田照幸、末永創、保坂慶太、安藤大佑
プロデューサー:長谷知記、大越大士、吉岡和彦、川口俊介
写真提供=NHK

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