『ベター・コール・ソウル』複雑に終幕へ 無限に悪へと転落し続けるソウル・グッドマン

 ソウルは再びマリオン宅へ赴くと、ジェフ(パット・ヒーリー)に新たなヤマを持ちかける。投資家を狙った個人情報の抜き取りだ。巧妙な手口と、カモを相手にバーでしこたま酒を飲ませるソウルの人当たりの良さは、さすがの手並みとしか言いようがない。あれよあれよと計画が成功する中、次に目を付けた投資家の男は、しかし末期の癌だった。「一度きりの人生だ」と言う彼に悲壮感はなく、ウォルターと違って遺される家族もいない様子だが、ウォルターにない金だけは確かにありそうだ。第10話以後、初登場する脇役が皆素晴らしく、前回の甘党な警備員役ジム・オヘアに続いて、ここでは癌の投資家役ケヴィン・サスマンに印象的なセリフが用意されている。ソウルに悪質な投資家の存在を問われた彼は言う、「エンロンやワールドコム、マドフがいるだろ。彼らには特別な地獄が待っている」。しかし末期癌という身の上にジェフ達の良心も咎めた様子で、腰が引けている。ソウルはもはや口癖と化した「知らぬ間にみんな忘れるから」という言葉で丸め込もうとする。ここでも“癌に侵されたカモ”を諦めきれないのだ。

 「オジマンディアス」「ニューハンプシャー」「フェリーナ」という怒涛の傑作エピソードによってカタルシスを得た『ブレイキング・バッド』に対し、『ベター・コール・ソウル』の語り口はあまりに過酷だ。ウォルターには落とし前をつける劇的な最期が用意され、ジェシーには赦しが訪れたにもかかわらず、ソウルはモノクロームの煉獄の中で無限に悪へと転落し続ける。回想シーンにはギョッとさせられた。カメラが上がると砂漠の墓穴には虚ろな表情のジーンが横たわっている。ジミーが『ベター・コール・ソウル』シーズン5でタンブラーや愛車といった自身を構成するモノを捨てたように、ジミー・マッギルという男は既にあの墓穴に葬られていたのかも知れない。残りあと2話。

■配信情報
『ベター・コール・ソウル』シーズン6
Netflixにて配信中
(c)Joe Pugliese/AMC/Sony Pictures Television

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