二人だけの“特別なロマンチック”を描く 実話を基にした『あなたがここにいてほしい』

 後悔のない恋愛をしているだろうか。心から大切にしたい相手と、向き合えているのだろうか。7月22日から公開中の映画『あなたがここにいてほしい』は中国のソーシャルカルチャーサイト「ドウバン」に投稿された実話をもとに、ある男女の10年間にわたる愛をつづったラブストーリーである。美しい景色とともに描かれる純愛は、時に苦しい現実によって引き裂かれそうになる。それでも懸命に「共に」いることを選び続けてきた主人公に、衝撃の結末が訪れる。二人に社会問題が降りかかる様子を通して、中国での結婚の現状を描き出した作品でもあり、「結婚」への価値観を揺さぶられる体験となるだろう。

 主人公のリュー・チンヤン役をチュー・チューシアオ、恋人であるリン・イーヤオ役を映画初主演となるチャン・ジンイーが演じており、二人のみずみずしい芝居にも注目してほしい。また本作の日本語吹替版では、チンヤン役を古川雄輝が、イーヤオ役を三森すずこが担当。字幕版とはまた違った趣が感じられることだろう。

 白蒲高校に通うリュー・チンヤンは校内で出会ったリン・イーヤオに一目惚れをする。リューはリンにラブレターを渡すが、それを生活指導担当のヤオ先生に見つかってしまう。頭を丸めて校内放送にて謝罪すれば見逃してやるという学校に対し、リューはその場を利用して彼女に愛を告白。晴れて結ばれた二人は、いつしか一緒に住むマンションの購入を夢見ながら同棲生活を送るも、現実はそこまで甘いものではなかった。いくつもの困難が降りかかる中、二人は幸せな未来を夢見て……。

 リューとリンの「10年」が丁寧に描かれている本作は、長い時間を共にしてきた二人だからこその演出がにくい。出会いを彷彿とさせるシーン、とある会話が繰り返されるシーン、どれもが見覚えあるシーンでありながら、別の見え方をすることで二人の関係性を描き出す。恋人と時間を共にするということは、二人の共通言語が増えるということ。特別な思い出が日常を彩り、そんな日々に二人でどっぷりと浸かることを意味している。相手がいないときも相手を想い、時にすれ違いながらも手を取り合う。こうした愛の真髄を、本作はあますことなく捉え続けているのだ。他愛もない日常の中に、二人だけの“特別なロマンチック”がある。それがこの二人をどれだけ支えているか。現実に立ちはだかる壁の高さに屈せず、愛を信じようとする姿に胸を打たれる。私たちの日常の中にも、リューとリンのように“特別なロマンチック”に支えられる関係はきっとたくさんあるのだろう。一人では苦しいことも、二人なら特別になる。そんな些細な幸せが、こぼれ落ちないように教えてくれる。『あなたがここにいてほしい』はそんな映画だと感じられた。

 恋人同士の長い期間を経て、そこに待ち受けているのは結婚だ。それが一筋縄でいかない場合もあるのは、中国に限った話ではないだろう。リューとリンもまた、二人の関係を揺るがす出来事に直面する。リューとリンを待ち受ける“出来事”については、劇場で確認してほしいが、涙なしに観ることのできない物語であることは間違いない。壮大な映像、そして透き通るような純愛が、私たちの心を強く突き動かす。愛とは臆病なもので、人は大事な局面に限って尻込みしてしまう。しかし本作は、大切にしたいと思える相手を、まっすぐに愛し続けることに背中を押してくれる。愛に迷いそうになった時に一歩を踏み出す勇気を与えてくれることだろう。

■公開情報
『あなたがここにいてほしい』
シネマート新宿・心斎橋ほかにて公開中
出演:チュー・チューシアオ、チャン・ジンイー
原作:リー・ハイボー『十年間一緒にいた彼女は。明日他人の嫁に行く』
監督:シャー・モー
プロデューサー:チェン・クォフー
制作:CKF PICTURES
主題歌:カレン・モク「empty world」
提供:リスキット/コミックリズ/チームジョイ
配給:リスキット
2021/中国映画/中国語/シネマスコープ/DCP/105分
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公式サイト:http://anakoko.jp

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