『ミニオンズ フィーバー』が追求する音楽の魅力 ブラックカルチャーのきらめきを楽しむ
さて、本作の舞台に選ばれたのは、70年代アメリカである。この時代には、やはりアメリカで新たなブラックカルチャーが花開いたことでも知られている。アフリカ系のダンサーやミュージシャンたちのパフォーマンスが楽しめる『ソウル・トレイン』の放送が始まり、ジャクソン5などのグループは大人気になった。『サタデー・ナイト・フィーバー』(1977年)のヒットに象徴されるように、ソウルの流れを汲むディスコも隆盛した。
そして、「ブラックスプロイテーション」と呼ばれた、アフリカ系の人種を主人公にした低予算映画が盛んに作られ始めたのも、アフリカ系のカルチャーとしての大きな一歩だった。本作に登場する悪役ユニット、「ヴィシャス・シックス」の首領“ベル・ボトム”は、文字通りベルボトム(大胆なフレアパンツ)を履いて派手に着飾ったアフロヘアのアフリカ系女性として登場する。その姿は、『コフィー』(1973年)や『フォクシー・ブラウン』(1974年)などで人気スターとなったパム・グリアなどをイメージしているはずだ。ヴィシャス・シックス一人ひとりの派手な紹介も、時代的なセンスが発揮されている。
同時にこの時代のアメリカでは、若者文化や人種的マイノリティが躍進する一方で「サイレント・マジョリティ」と呼ばれた、保守的な政治観を持つ人々が、変化の流れに冷ややかな視線を浴びせてもいた。そんな空気を描いて、70年代の社会状況の先触れとなったのが、映画『イージー・ライダー』(1969年)だった。
本作では、そんな時代を写しとるように、サンフランシスコまでの道のりをバイクで疾走するシーンがある。そのバイカーが、ここではアフリカ系であり、ヒップホップ・アーティストのRZAが声を演じていることが、より現代的な表現となっているといえよう。
そして、そんなRZAが映画監督として、2012年にカンフー映画『アイアン・フィスト』を撮るほどに愛している、中国武術の要素が登場するのも印象深い。世界的なカンフーブームを生んだ、ブルース・リーの『燃えよドラゴン』(1973年)が公開されたのも、やはり1970年代のことである。RZAやウータン・クランなどが、ヒップホップ・アーティストらが、カンフー映画に影響を受け、さらに本作に参加しているサンダーキャットが、アニメ『ドラゴンボール』をフィーチャーした楽曲を作っているなど、現在もその流れはかたちを変えて受け継がれているといえる。
このように、本作『ミニオンズ フィーバー』は、70年代アメリカの、主にブラックカルチャーのきらめきを楽しむ一作であるといえる。だから、原題“Minions: The Rise of Gru”を、『ミニオンズ フィーバー』とした邦題は、本質を外さないタイトルとなっているといえるのではないだろうか。そして、原題“The Rise of Gru”の意味は、グルーが立ち上がっていく状況を通して、過程を現在数多くの人種が活躍できる状況の素地が、この時代に敷かれたことを暗示しているように思えるのである。
まだまだ好調なスピンオフ『ミニオンズ』シリーズは、これからも製作され、2010年代に始まった『怪盗グルー』シリーズ第1作の時代へと回帰していくのは確実だと思われる。
60年代、70年代ときて、次作は80年代をフィーチャーするのが順当だろう。だが、じつはメインのシリーズ『怪盗グルーのミニオン大脱走』(2017年)で、すでに80年代を題材とした内容が描いてしまっているのも事実だ。果たしてそのまま次作で80年代を描くのか、それとも90年代以降から手がけるのだろうか。しかし、どちらにせよ本シリーズが、その時代の息吹をミニオンたちの物語の背景に吹かせ、現在につながる“熱気”や“精神”を作品のパワーとしていくことは確実だといえよう。
■公開情報
『ミニオンズ フィーバー』
全国公開中
プロデューサー:クリス・メレダンドリ
監督:カイル・バルダ
声の出演:スティーヴ・カレルほか
配給:東宝東和
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