ボブ・オデンカークらの最高の演技が光る 『ベター・コール・ソウル』S6第9話は傑作回に

 マイクの物語も円環を閉じていく。事態が終息し、自宅に戻るもナチョ(マイケル・マンド)のことが頭から離れない。ナチョの父親が働く工場に電話をかけると、話がしたいと外に呼び出した。冷静沈着なマイクには珍しい感情的な行動だが、父親の安否だけを気にしていたナチョのためにも事の顛末を告げることが贖罪になると考えたのだろう。「サラマンカにはいずれ正義の制裁が下る」と言うマイクに、ナチョの父親は突きつける「あんたが言ってるのは“正義”ではない。それは単なる復讐だ」「ギャングに正義などない。あんたらは皆同じ」。ガスの復讐心に同調し悪へと転落したマイクに返す言葉はなく、もはや後戻りもできない。その結末は既に僕たちが知るところだ。

 そして『ブレイキング・バッド』へと連なる最後のミッシングリンクが語られる。ハワードのお別れの会が開かれ、故人を偲ぶその場でもジミーは息をするように嘘をつく。関係が冷え切っていたとは言え、ハワードの妻は最後の目撃者とされているジミーとキムに詰問する。すると、ジミーと呼応するようにキムも嘘をつく(そこには再び悪事のスリルに身を任せているような節が見て取れる)。これまでジミーは自分自身の転落に気付くことはおろか、愛するキムを引きずり下ろしていることにも気付いておらず、2人は互いに作用し合いながら相手にとって“害悪”であり続けた。エピソードタイトル「Fun and Games」は“it is all fun and games until someone loses an eye”ということわざに由来する。楽しいゲームがもたらしたとてつもない代償に打ちのめされ、キムは弁護士資格を返上してジミーのもとを去る。そうして1人となったジミーは悪趣味な豪邸を買い、賑々しい衣装に身を包み、素っ頓狂な自由の女神バルーンを飾って悪徳弁護士稼業に精を出す。『ブレイキング・バッド』におけるキムの不在とは、ソウル・グッドマンへと変貌することで「いつか忘れられる」と彼女のことから目を背けた、ジミーの“ずるさ”によって生じたのだ。

■配信情報
『ベター・コール・ソウル』シーズン6
Netflixにて配信中
(c)Joe Pugliese/AMC/Sony Pictures Television

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