上川隆也「声は自分の大事なツール」 遺留品に宿る思いをすくう糸村の“声”も魅力に

上川隆也が語る『遺留捜査』糸村聡への思い

 1989年より劇団で活躍し、1995年には山崎豊子原作小説をドラマ化した『大地の子』(NHK総合)で、主人公・陸一心を好演して一気に注目を集め、以降、第一線を走り続けている俳優・上川隆也。山内一豊役で主演を務めた大河ドラマ『功名が辻』(NHK総合)など、多くの作品で印象的な役柄を演じてきたが、なかでも上川が最も長く演じ、視聴者に支持され続けているのが、第7シリーズ放送開始となる『遺留捜査』(テレビ朝日系)の京都府警警部補・糸村聡だ。

 少々変わり者ながら、遺留品からさまざまな思いを汲み取る糸村を、愛すべきキャラクターとして息づかせる上川に『遺留捜査』への思いを聞いた。また、遺留品から思いを伝える糸川の言葉に説得力を持たせている上川の“声”を、自身はどう感じているかも直撃した。

糸村を糸村たらしめる“神経質な無神経さ”

――2011年にスタートし、スペシャルをあわせて17作目となる人気シリーズです。作品に臨む上での心がけを、改めて教えてください。

上川隆也(以下、上川):毎作ごとに新鮮でありたいと思っています。水の流れでも、どこかに淀みやわだかまりができてしまうと、流れが悪くなるのは自明の理です。僕は『遺留捜査』に、そして糸村というキャラクターの思考や行動に、滞りが生じないようにしていきたいと思っています。これまで演じてきたストーリーや事件は、ある種アーカイブ的なものとしても大事に尊重しなければならないと思いつつ、一方で毎話ごとに新鮮に臨んでいたいと思っています。

――数々の名作を生んで来た「木曜ミステリー」枠のラストを飾る、集大成を担う作品でもあります。

上川:そうした大きな誉れを担うには、『遺留捜査』という作品は“埒外”にいるのではという思いもあります。事件に関わる人々の心情にまで踏み込んで描く『遺留捜査』は、刑事ドラマとしてもミステリー作品としてもある意味、スタンダードを逸脱したスタイルでお届けしてきましたから……。でも、歴々の作品が重ねてきた歴史に恥じない作品にしたいという思いは強く、そのために今できることはできる限り、注ぎ込みたいと考えて全力で努めています。

――糸村を演じるにあたって、これは外さないようにしているといったものはありますか?

上川:“神経質な無神経さ”でしょうか。糸村のなかには、この2つが明確に同居していると思います。遺留品に向かう姿勢は、どんな細微なことも漏らさず、得られる情報を手にしようと注力しますし、エネルギーを全集中していると思います。一方でレギュラーの面々をはじめ、そのときのゲストの方々に対しても、どこか無神経を厭わない部分があります。その相反する要素の同居が、糸村を糸村たらしめているように思います。

――糸村といえば、自転車に乗る姿も印象的です。

上川:現場、もしくは聞き込みに向かう際に、彼は自転車で向かいます。そのスタンドアローンな姿は、彼が誰にも縛られず、また常識にも囚われず捜査に臨んでいることの象徴でもあるように思います。彼の自由と異端を自転車が表しているのではないでしょうか。

――作品を拝見していても、こうした取材中も、上川さんは声がとてもステキだと感じます。もともと舞台出身ですが、ご自身の“声”についてはどのような意識を持たれていますか?

上川:良し悪しは自分では評価のしようがないので、そこは受け取ってくださる方に委ねたいと思いますが、大事なツールであるとは思っています。なればこそケアも必要だと思いますし、使い分けも必要であるならばするべきだろうと思います。理想を言うならば、同じリコーダーでも、竹筒のように太いものから、両手に隠れるほど小さなクライネソプラニーノなんてものまであって、それぞれに音色を変えていくように、僕の声という領域のなかで、さまざまな役にあわせて操っていけたらとは思っています。

――ご自身の声は好きですか?

上川:いい声の方は他にもたくさんいらっしゃいますし、そちらに憧れる思いこそあれ、自分の声が特段いい声だと思ったことはありません。ただ自分自身にとって丈夫で扱いやすいツールだとは思っています。舞台などで酷使したとしても、幸いあまり潰れないんです。風邪なども引きづらいので、そこはありがたさを覚えています。

――良し悪しだけでなく、役者さんの言葉には“届ける”力が大切かと。上川さんの声にはそうした力もあるように思います。

上川:ありがとうございます。演じる人物それぞれが発する言葉の色や重さは、そのままキャラクターの造形に繋がっていきますので、言葉の持っている影響力というのは大きいと思っています。できることは限られているのは分かっていますが、その限られたなかで、どこまでキャラクターのことを考えて寄り添えるかというのは、いつも考えることですし、役柄によってその高低や硬軟も含めて、声色というものは、とても大事にしたいと思っている部分のひとつです。

――役から離れた上川さんご自身は、思いや考えを言葉として外に出すほうですか? たとえば有言実行であるなど。

上川:僕自身は思いにしても、目標や願望なども、あまり言語化しないほうだと思います。幸いにしてここまでの役との出会いや共演者との巡り会いなど、こうしたいといった願望を言葉にして来ずとも、叶えることができてきたと実感しています。ですから、これからも自分としてはそうした思いをあまり表に出さないでいようと思っていますし、言葉の持っている力に関しては、僕にとっては唯一役柄にこそ反映されるべきものであるように受け止めているように思います。いま改めて考えてみて実感しました。

――役として発する言葉を常に大切にしつつ、ご自身の生き方としては言葉を外に出すよりは、言語化できない縁などへの思いのほうが大きいと。

上川:仰る通り、まさにそうした感覚です。

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