『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』が描いていた“アメリカのもうひとつのリアル”

『BTTF2』に仕掛けられた映画のマジック

ゼメキスの「誰も見たことがない視点」を描きたいという欲望

 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作も、すでにある歴史をマーティという異分子の視点から捉え直す物語であり、彼の破天荒な冒険を目撃できるのは親友ドクと観客だけだ。1作目にも増してマーティの孤軍奮闘ぶりが際立つ『PART2』は、特にその要素が色濃い。マーティと観客だけが(1作目のマーティ自身すら差し置いて)ダンスパーティーの夜の「もうひとつのミッション」を共有するのである。

 ゼメキスの「誰も見たことがない視点」を描きたいという欲望は、彼がこだわり続ける映像技術の革新とも直結しているのだろう。彼が視覚効果を駆使した映像スペクタクルに傾倒するようになったのも、明らかに『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズがきっかけだ。前作はスケジュールの都合で思い通りの視覚効果を実現できない部分も残ったが、その反動というべきか『PART2』では特撮カットが膨大なものとなり、視覚効果を手がけたILMには「ビスタグライド」という新技術まで開発させている。これは1人の俳優が同一画面に2人以上存在する合成ショットを、滑らかな移動カメラワークのなかで実現できるという高性能モーションコントロールカメラで……などと説明しても、今の映画ファンは「それの何がすごいの?」と思うことだろう。デジタル合成技術が未発達だった時代の昔話だが、アナログの光学合成がメインだった当時としては画期的な技術だった。マイケル・J・フォックスやトーマス・F・ウィルソンが特殊メイクを施して1人2~3役を演じ、それぞれの自分と共演するシーンの撮影は、ゼメキスを夢中にさせた。この試みと発想は、たとえばノオミ・ラパスが1人7役を演じる『セブン・シスターズ』(2017年)など、後世にも多大な影響を与えているはずである。

 ゼメキスの皮肉な諷刺精神、先鋭的な技術革新、そして「ファンの期待に応えつつ、やりたいことをやる」という作家的野心が詰まった『PART2』は、いまだに観るべきところの多い作品だ。しかし、やはり時代を右往左往する物語はまとまりに欠け、クライマックスはその構造ゆえにスピンオフ感が否めないし、結末がないので作品単体としても不完全である。鉄道と馬と銃弾、そしてデロリアンが共演する文字どおりの直線的スペクタクルが展開し、文句なしの大団円を迎える『PART3』の簡潔な娯楽性とは対照的だ。それでも『PART2』の意欲的プロット、独特のムードを支持する人は少なくない。

 そのコントラストは3本それぞれの個性となり、いまだにファンの間に「三部作のどれがいちばん好き?」という話のタネを提供し続けている。それもまた、ボブ&ボブの巧みな計算のなせる技だろう。

■放送情報
『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』
フジテレビ系にて、7月9日(土)21:00~23:10放送
監督:ロバート・ゼメキス
製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ
出演:マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン、トーマス・F・ウィルソン、エリザベス・シュー
(c)1989 Universal City Studios and U Drive Productions, Inc. All Rights Reserved.
写真:アフロ

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