『ククルス・ドアンの島』を通して考えるガンダムと戦争 “匂い”を次世代に繋ぐために
映像で表現できない「匂い」がキーワードになる理由
「少年の戦争ごっこ」とはどういうことかを示すために、本作で追加されたオリジナルキャラクターの1人が重要な役割を演じる。アムロと同世代と思われる少年マルコスだ。
彼は、子どもたちを守るための力が欲しいと願っており、そのためにアムロのガンダムに乗りたがる。だが、マルコスは戦争の悲惨さをまだ知らない人物だ。戦争を「戦争ごっこ」レベルで考えていると言い換えてもいい。その意味で戦争を知らずに箱庭で戦争を考えている私たち観客に近い立場と言えるかもしれない。
アムロとマルコスは好対照を成す。戦争を知ってしまったアムロは、これまで幾人もの人間を葬ってきた。本作でも生身の敵を踏みつぶすシーンがある。その光景を見たマルコスはショックを受ける。自分が戦争について何も知らなかったのだと思い知らされる。
本作で最も印象に残る台詞は、アムロがドアンに言う「あなたに染みついている戦争の匂いが戦いを引き寄せる」だろう。
ドアンと一緒に住んでいたマルコスには戦争の匂いはわからないが、アムロにはその匂いがわかってしまう。「匂い」というキーワードが再び観客にメタ的な視点を与える。匂いというものは、映像では表現できない。実際の戦争の匂いは、本や映画やアニメなどの架空の箱庭体験では得られない。実際に戦争を体験した者にしか匂いはわからないのだ。
アムロはもう戦争の匂いを知ってしまっている。マルコスは、我々観客と同様にまだその匂いを知らずに済んでいる。だから、無邪気に強さを求める少年でいられたのだ。
絵空事でしか戦争を知らないで済むということは、幸せなことだ。マルコスをはじめ島の子どもたちにはそんな匂いとは無縁で生きてほしいと思う。同時に、戦争の匂いを知らないままでは戦争の悲惨さや愚かさを忘れてしまうからなんとか絵空事なりに伝える努力をしないといけない。この矛盾を抱えた命題を、「箱庭の戦争ごっこ」はクリアできるのか。『ガンダム』シリーズは、いや、それだと主語が小さい、現代日本人はその命題を抱え続けなければいけない。『ガンダム』シリーズは常にその困難な命題を抱えているが、本作もまたその命題に鋭く向き合った作品だと言えるだろう。
■公開情報
『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』
全国公開中
企画・制作:サンライズ
原作:矢立肇、富野由悠季
監督:安彦良和
副監督:イムガヒ
脚本:根元歳三
キャラクターデザイン:安彦良和、田村篤、ことぶきつかさ
メカニカルデザイン:大河原邦男、カトキハジメ、山根公利
総作画監督:田村篤
美術監督:金子雄司
色彩設計:安部なぎさ
撮影監督:葛山剛士、飯島亮
3D演出:森田修平
3Dディレクター:安部保仁
編集:新居和弘
音響監督:藤野貞義
音楽:服部隆之
製作:バンダイナムコフィルムワークス
主題歌:森口博子「Ubugoe」(キングレコード)
配給:松竹ODS事業室
(c)創通・サンライズ
公式サイト:https://g-doan.net/