奥平大兼は映画に愛される俳優だ デビュー作『MOTHER マザー』から凝縮されたエッセンス

『マイスモールランド』(c)2022「マイスモールランド」製作委員会

 奥平が出演する最新の映画は、5月6日から公開された川和田恵真監督作『マイスモールランド』だ。クルド難民の主人公サーリャ(嵐莉菜)と同じアルバイト先で働く高校生・聡太を演じている。奥平のエッセンスは『MOTHER マザー』以降の2年間でぐっと凝縮され、作品中での存在感と安定感は抜群のものへと成長している。どうして「普通の青年」をここまで強く演じられるのだろうか。なんでもない場所でサーリャと並び、なんでもない会話をしている、あるいはもはや会話をしているのでもなく、相手の発言に耳を傾け、ただ「反応」だけをし、「応答」には困る、という聡太にどうしようもなく釘付けになってしまう。ふと無意味に泳ぐ目線や、ふと無意味に開く口元に、そのエッセンスは滲む。

 奥平は『マイスモールランド』のインタビューで、次のように語っている。

なんというか、なるべく生の感情とか反応で芝居がしたいと思っていて。できることなら、役として先に知る必要がないものは知りたくないんです。なので、僕の出番がないシーンを撮っているときも、なるべく自分の芝居とつなげないように断片的に見るようにしていて。器用にお芝居ができるタイプじゃないからこそ、変に感情を動かしたくない——みたいなところがあるのかもしれないですね。(『キネマ旬報』2022年5月上下旬合併号 No.1893より)

 奥平の言う「生の感情」は、知らないことを知らないままにし、役の余白を余白のままにすることでも守られるのだろう。本人は「器用」でないと語っているが、生の感情を守り、滲ませるようにアウトプットする手法は極めて高度だ。

 奥平が現実世界から持ち込み、役の余白に浸透させ挙動に滲ませるエッセンス。これを、リアリティーとして表出させている装置はやはりカメラなのだろう。彼が映画の中に佇み、歩き、呟き、瞳を動かす一連の所作は、映しとられたものであることに大きな意味がある。18歳の彼はこれから多くの映画に出演するであろうし、彼が出演するであろうこれからの映画に、今の私たちの想像の範疇をはるかに超える将来があることを願ってやまないが、とりあえず早急に、奥平大兼の現在を多くのフィルムメイカーに捉えてほしい。今の彼を映した映画が足りない。もっと見たい。

■公開情報
『マイスモールランド』
全国順次公開中
出演:嵐莉菜、奥平大兼、平泉成、藤井隆、池脇千鶴、アラシ・カーフィザデー、リリ・カーフィザデー、リオン・カーフィザデー、韓英恵、サヘル・ローズほか
監督・脚本:川和田恵真
主題歌:ROTH BART BARON「New Morning」
企画:分福
制作プロダクション:AOI Pro.
共同制作:NHK FILM-IN-EVOLUTION(日仏共同制作)
配給:バンダイナムコアーツ
助成:(文化庁ロゴ)文化庁文化芸術振興費補助金(映画創造活動支援事業)独立行政法人日本芸術文化振興会
製作:「マイスモールランド」製作委員会
(c)2022「マイスモールランド」製作委員会
公式サイト:mysmallland.jp
公式Twitter:@mysmallland

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