江口拓也、『SPY×FAMILY』ロイド役で見せる二面性 35歳の誕生日を機に振り返る

 そんな江口は今期も多数の作品に出演しているが、最も熱い話題を振りまいているのが『SPY×FAMILY』である。本作は、江口演じるスパイで精神科医のロイドと、早見沙織演じる殺し屋のヨル、種崎敦美演じる超能力者のアーニャの3人がオペレーションを遂行するために仮初めの家族となり、諸問題に立ち向かっていくホームコメディ。スパイ、殺し屋、超能力者とだけ聞くと、シリアスな作品のように思うが、扱われる題材こそサスペンスではあるものの、終始コメディタッチで描かれており、その塩梅が非常に心地いい。2019年に『少年ジャンプ+』(集英社)で連載されると、「次にくるマンガ大賞2019」「このマンガがすごい!2020」「全国書店員が選んだおすすめコミック2020」といった数々の賞で1位にランクイン。これまでにコミックスのシリーズ累計発行部数は1800万部を突破するなど、話題作となっている。

 ロイドは西国情報局、通称WISEの敏腕スパイとしても知られ、スパイとしての実力は超一流。任務を達成するためには、手段は問わない冷酷な側面もある。その一方で、オペレーション〈梟〉を達成するための手段として偽装家族を作っていくなかで、妻のヨルと娘のアーニャへ接する振る舞いは人間味のある温かい父親の姿そのもの。そんな二面性のあるロイドを演じるにあたり、江口はインタビューで「ロイドは、ある種、人間らしさみたいなものを排除することでスパイとして一流になった人ですが、だからこそ『徐々に感じられる人間らしさ』は意識しました」(※2)と語っているように、話数を重ねるに連れてじんわりと人間味が出てくる。江口はロイドという人物の心の内の変化を声に乗せて表現するのが本当に上手だと感じる。

 第4話でイーデン校の面接の最中にロイドが、アーニャに無神経な質問を投げかけた教師のマードック・スワンの失礼な態度に我慢しきれず、目の前にあった机に拳を振り下ろしたシーンは、ロイドの変化を語る上で象徴的なシーンとなっており、そこにはスパイの面影は一切なかった。もし家族という存在がいなければ、ロイドはいつものように平常心で任務を遂行していただろう。それができなかったのはアーニャに対して娘としての情を抱いたからに他ならない。江口はスパイと父親の間に揺れる葛藤を丁寧かつ大胆に表現していた。

 これまでもクセの強いキャラクターを見事に演じてきた江口だが、ユーモアとシリアスが必要とされるロイドはまさしく演じるのが手強いキャラだろう。しかし、江口はこれまでの経験に裏付けされた確かな演技力で、キャラクターに説得力をもたらしていた。見れば見るほど、滲み出るロイドの人間くささに惹かれていくのだ。次第に人間としての魅力が垣間見られるロイドの、そして江口の演技にぜひ注目してみてほしい。

参照

※1. https://www.animatetimes.com/news/details.php?id=1305249336
※2. https://anime.eiga.com/news/115758/

※種崎敦美の「崎」は「たつさき」が正式表記。

■放送情報
『SPY×FAMILY』
テレビ東京ほかにて、毎週土曜23:00〜23:30放送
キャスト:江口拓也、種崎敦美、早見沙織
原作:遠藤達哉(集英社『少年ジャンプ+』連載)
監督:古橋一浩
キャラクターデザイン:嶋田和晃
総作画監督:浅野恭司
助監督:片桐崇、高橋謙仁、原田孝宏
色彩設計:橋本賢
美術設定:谷内優穂、杉本智美、金平和茂
美術監督:永井一男、薄井久代
3DCG監督:今垣佳奈
撮影監督:伏原あかね
副撮影監督:佐久間悠也
編集:齋藤朱里
音響監督:はたしょう二
音響効果:出雲範子
音楽プロデュース:(K)NoW_NAME
制作:WIT STUDIO×CloverWorks
(c)遠藤達哉/集英社・SPY×FAMILY製作委員会
公式サイト:http://spy-family.net/
公式Twitter:https://twitter.com/spyfamily_anime

関連記事