観客を魔法界に引き込むクリエーション 『ファンタビ』第1作は音楽&衣装デザインに注目

 日本中が魔法にかかった『ハリー・ポッター』から20年。新たな魔法界で繰り広げられる物語が、ふたたび人々を魅了している。

 『ハリー・ポッター』シリーズより約70年前の世界で、ホグワーツの教科書にもなった『幻の動物とその生息地』の著者であり魔法動物学者のニュート・スキャマンダー(エディ・レッドメイン)を主人公にした『ファンタスティック・ビースト』シリーズ。待望の最新作『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』の公開に先駆け、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)では2週連続でシリーズ過去作を放送する。

 未知の幻獣を求めてニューヨークに降り立ったニュート。ひょんなことからノー・マジと呼ばれる魔法を使えない人間のジェイコブ・コワルスキー(ダン・フォグラー)と出会い、思わぬハプニングによりトランクの中で保護していた魔法生物を逃がしてしまう。事態を重く受け止めた元・闇祓いのティナ・ゴールドスタイン(キャサリン・ウォーターストン)はニュートをアメリカ合衆国魔法議会(通称・マクーザ)に連行するが、そこでは魔法界を脅かす存在であるグリンデルバルド(ジョニー・デップ)の行方を巡り、ピッカリー議長らが態勢を話し合っていた。魔法使いの根絶を目指す新セーレム救世軍の暗躍や不可解な黒い影がもたらす街の崩壊、不穏な空気が漂うニューヨークで、ニュートたちは魔法生物の捕獲に奔走し、やがて大きな闇の存在に対峙していく。

 本稿ではそんな『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』に登場するドラマチックな音楽、そして第89回アカデミー賞で衣装デザイン賞に輝いた衣装の造詣に注目し、最高峰のチームが手がけた映画を彩るクリエーションについて綴っていきたいと思う。奥深い世界観を紐解くヒントを得ることで、初めて“ファンタビ”を観る人もこれから観る人も、作品をより楽しむための橋掛かりになれば幸いだ。

 まずは劇中に登場する音楽について、『ダークナイト』(ハンス・ジマーとの共同制作)や『マレフィセント』などを担当したジェームズ・ニュートン・ハワードの手掛けた楽曲を聴いて気づいたことを綴っていきたい。

 オリジナルサウンドトラック(OST)のイントロである「Main Titles(Fantastic Beasts and Where to Find Them)」の冒頭では、『ハリー・ポッター』シリーズで象徴的なメロディとして使用されていた「ヘドウィグのテーマ」の一節が引用されている。これは『ハリー・ポッター』と『ファンタスティック・ビースト』が地続きの世界で成り立っていることを明示し、前シリーズを観た観客を世界観に誘引する役割を担っている。

 サウンドトラックのイントロに収録されている曲、ないし映画の冒頭で流れる曲というのは、作品の根幹にあるテーマを表現していることが多い。続く2作目『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの誕生』のイントロでは、1作目に続き「ヘドウィグのテーマ」がオルゴール調のアレンジで流れ、その後には囁くようなリフレインの合唱が登場する。これは作中のキーパーソンであるリタ・レストレンジ(ゾーイ・クラヴィッツ)の人物性を示唆した旋律として、劇中で何度も使われている。

 『ファンタスティック・ビースト』の音楽は同一のメロディをアレンジ違いで登場させ一貫性を持たせる手法を用いている。例として挙げられるのは「Tina Takes Newt In / Macusa Headquarters」や「Newt Says Goodbye to Tina」で、前者はニュートとティナがマクーザへと向かうシーン、後者は事態が収束した後、イギリスへと帰るニュートがティナに別れを告げるシーンで使用されている。どちらともが2作目ではアレンジ違いで登場しており、1作目と類似するシーン中で流れているのは、シリーズを続けて観た人ならお気づきのことかと思う。アウトサイダーで似たもの同士のニュートとティナはこれまで日進月歩ながら互いを理解し関係性を築いてきたが、3作目ではどうなるのか。

 そして、魔法界を統括・管理する場所として世界各地に存在する魔法省の、いわゆるテーマソングとして登場してきた楽曲は、ブラジルやドイツなどの支部が登場する最新作でどのようなアレンジを施され再登場するのか。音楽の観点から作品を読み解いた上での3作目への期待と楽しみも、物語の行方やキャラクターの活躍とともに胸を躍らせる要素のひとつである。

関連記事