『カムカム』多岐川裕美がにじませる長年の後悔 雪衣が“ひなたの道”を歩めることを祈って

 様々な大人たちの心の中でくすぶり続けていたわだかまりが次々に明らかになっている『カムカムエヴリバディ』(NHK総合、以後『カムカム』)。るい(深津絵里)が実家に、また母親・安子(上白石萌音)に対して抱いていた疑念や居心地の悪さの分だけ、後悔をにじませバツが悪そうなのが、るいの叔父の勇(目黒祐樹)とその妻・雪衣(多岐川裕美)だ。

 安子編の頃から、品の良さを感じさせながらも勇(村上虹郎)への好意もあってか安子にどうしたって冷たく当たってしまい、時折隠しきれないドロドロとした黒い感情を覗かせてきた女中の頃の雪衣(岡田結実)。雪衣から安子への眼差しはまるで“なんで勇さんとあんなに親しげなのか”、“未亡人でありながらるいちゃんと一緒に突然雉真家に迎え入れてもらったのに、なぜるいちゃんを置いてわざわざおはぎを売りに行くのか”と恨めしそうだった。何より自分が慕ってきた雉真家の皆の関心を良くも悪くも一気に集めていく安子に対して、これまで努力して築いてきた居場所を奪われかねないという焦りや恐怖、苛立ちもあったのかもしれない。

 安子の留守中に、るいのおでこに触れながら「雉真の家にお返ししようと決めたんじゃ思います」とこぼした雪衣の声は、驚くほど冷たく鋭かった。それは、十分すぎるほど恵まれているのに、自分にはないものを全て手にしている安子なのに、雉真家の庇護下に甘んじず外に出て働くことまで諦めない、その安子の貪欲さがまた疎ましかったのかもしれない。

 さらに、安子が娘の額の治療費を自分でなんとか稼ぎ出すために働きに出ていることを知らない者からすれば、余りある待遇の中、さらに外で働く“自由”まで手にしようとしている贅沢者に映ったのかもしれない。ただ、もしかすると周囲に尽くし、自分のことはこれまで尽く後回しだったであろう雪衣が、たった一つどうしたって譲れなかったものが勇への恋心だったのかもしれないと思うと、それはそれで切ない。

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