うんざりした感情から解き放たれたいと願う兄妹の日常 『私の解放日誌』が描く3人の葛藤
また、このドラマで浮き彫りになってくるのは、人間は愛されたい生きものである、ということ。ギジョンは、ろくに恋愛もできず、女好きの同僚にさえ声をかけてもらえていなかった。とてもおしゃべりで、口をひらけば文句ばかり言っている彼女は「電話をしてくれる誰かと何でもいいから話したい」「存在を主張するためじゃなく、安らぐために話したい」と友人に洩らした。
ミジョンは、社内の同好会に入らないのかと強いられては「家が遠いので」と断り、同僚とランチをしたりするもののあまり輪に打ち解けられるタイプではない。そして、容姿について「一つひとつのパーツは綺麗だと思うけど、全体的に見ると平凡だ」と陰で言われたり、自分以外の同僚たちが密かに海外旅行の計画をしていることを耳にしてしまうなど、起きてから寝るまで全ての時間が労働に感じられると言うほど、窮屈な日々を送っている。
彼女たちに共通して言えるのは、自分が心を開いて全てを打ち明けられる存在がいないということだろう。自分のことを心から大事に思ってくれて、親身になって受け止めてくれる存在だ。そんな存在がいつかできることを夢みて、今は未来に出会うその人のために生きているのだ。
ギジョンは「誰でもいいから恋愛がしたい」と、自分の心に嘘をついている。ミジョンは、平凡だと言われ、やった仕事もほとんど全て修正されてしまい、入りたくないと言っている同好会にも無理やり入らされそうになる。チャンヒだって、彼女に自分が住んでいる場所のことすらちゃんと知ってもらえていなかった。自分とは何なのか、本当の自分を愛してくれる人はこの世に存在するのか。3人とも、形は違えど、誰かに本当の自分を知ってほしいと心の底では思っていた。
筆者も、電車で都心までは行けるけれど少し遠い場所で生まれ育ち、「家が遠いので」と誘いを断った経験は何度もある。実際、家が遠いのは嘘ではない。しかし、それ以外に参加したくない理由もあったように思えて、ミジョンの気持ちが痛いほど理解できた。同様に心の中にしまって忘れたふりをしていたものを覗き見られてしまったような気持ちになった人も多いのではないだろうか。
チャンヒとギジョン、ミジョンは性格が違うので、観た人は彼らうちの誰かひとりでも自分を重ね合わせることが出来るだろう。自分に正直になれない大人たちに現実を突きつけながらも、一緒にそこから自分を知る方法を教えてくれる、そんな物語だ。
彼らがどのように自分をさらけ出し、解放させていくのか。それぞれの道を見守っていきたい。
■配信情報
『私の解放日誌』(全16話)
Netflixにて配信中(毎週日曜、月曜に最新話配信)
脚本:パク・ヘヨン
監督:キム・ソクユン
出演者:イ・ミンギ、キム・ジウォン、ソン・ソック、イ・エルほか
写真はJTBC公式サイトより