『SING/シング:ネクストステージ』にみるシリーズ人気の理由 娯楽産業の抗い難い魔力

 ユニバーサル・ピクチャーズ傘下のアニメ製作会社「イルミネーション」の劇場作品の一つとして多くの観客を魅了、予想を超える評価を獲得した『SING/シング』(2016年)。さまざまな動物たちが文化的に暮らす世界を舞台に、さびれた劇場で行われる歌のコンテストが、多くの動物たちの心を動かす様を、ヒットソングの数々とともに見せていくアニメーション作品である。

 大きな支持を受けて、この度製作された続編『SING/シング:ネクストステージ』は、スケールが飛躍的に大きくなるとともに、前作と同様に印象深く味わい深い内容となった。日本でも、現時点で週間興行収入ランキングで3週連続1位を獲得する成功作となっている。ここでは、そんな『SING/シング』シリーズの人気の理由や、本作『SING/シング:ネクストステージ』で描かれていたものは何だったのかを考えていきたい。

 前作『SING/シング』では、劇場の支配人であり舞台のプロデューサーである、バスター・ムーンというコアラ(マシュー・マコノヒー)が、街の人々を集めた歌のコンテストを成功させ、劇場を再興させるまでが描かれた。

 往年のヒット曲から最近の歌まで、様々な楽曲が本編で出演者たちによって歌唱されることで、幅広い世代の観客が楽しめる趣向が、本作の大きな魅力となっている。その背景に、アメリカを中心とするオーディション番組の根強い人気の存在がある。一方、日本にも『スター誕生!』(日本テレビ系)をはじめとするオーディション番組があり、「カラオケ」や「のど自慢大会」など、古くから既存の歌を歌うことをショーアップする文化が染み渡っている。そんな日本で本シリーズが支持されるというのは、当然といえば当然なのかもしれない。

 主人公のバスター・ムーンは、観客を感動させるショーを生み出すことに異常なほどこだわり、そのために法を破ることも辞さない男。前作では、銀行に押収された劇場でゲリラ的に歌のコンテストを強行し、本作では業界大手の開催するオーディション会場に違法に侵入、引退した超大物ミュージシャンを出演させられると大ボラを吹くことになるなど、相変わらず詐欺師と見分けがつかない行動をとっている。しかし、今回ハッタリをきかせている相手は、業界の大物で、ほぼマフィアと見分けのつかない、オオカミのジミー・クリスタル(ボビー・カナヴェイル)なのである。ムーンは、かつてない窮地に陥ることとなる。

 金銭や私利私欲が目的ではなく、あくまでショーを作ることに執心しているのが、バスター・ムーンの憎めないところだ。同様に、ブタのロジータ(リース・ウィザースプーン)やグンター(ニック・クロール)、ゴリラのジョニー(タロン・エジャトン)やゾウのミーナ(トリー・ケリー)など、歌で脚光を浴びることが夢だった動物たちも、彼の熱意に共鳴し、ときにルールを破りながらも、エンターテイナーへの道を歩むのである。大勢の観客の注目が注がれる舞台でパフォーマンスをする者には、多かれ少なかれ、ムーンのように常軌を逸するような激情が必要だという視点が、そこには含まれているように感じられる。

 本シリーズは、夢や希望が狂気と紙一重であることを、一貫して描いている。それが端的に分かるのが、ムーンの憧れた伝説の歌手である、ヒツジのナナ(ジェニファー・ソーンダース)の存在である。彼女のイメージは、ハリウッドの名作スリラー映画『サンセット大通り』(1950年)の強烈なキャラクター、ノーマ・デズモンド(グロリア・スワンソン)を参考にしていると思われる。

 このノーマという女性は、古めかしい豪邸で過去の栄光に囚われながら、何やらワケありの執事とともに孤独に過ごしている、かつてのハリウッドスターだ。彼女のハリウッドへの妄執は異常なものとなり、やがておそろしい事件へと発展していく。そんな、きらびやかな世界への怨念を描いた作品にオマージュを捧げていることで、本シリーズは娯楽産業の抗い難い魔力を表現していると感じられるのだ。

関連記事