『明日ちゃんのセーラー服』が視聴者を虜にする理由 圧倒的な作画と物語を彩る音楽に注目
女子中学生の日常を鮮やかに切り取ったTVアニメ『明日ちゃんのセーラー服』。主人公の明日小路が、初めてのクラスメイトと出会い、親交を深め、成長していく、その一連のストーリーは視聴者を虜にする魅力のひとつではあるが、中でもファンから高い評価を得ているのは、写実的な背景描写と物語を彩る音楽にある。3月26日に最終回を迎える本作のこれまでのストーリーを振り返りつつ、それを支える作画と音楽の魅力に迫っていきたい。
『明日ちゃんのセーラー服』は、博による人気漫画が原作となっており、2016年から『となりのヤングジャンプ』(集英社)にて連載がスタート。原作コミックスはシリーズ累計70万部を突破し、現在9巻まで発売されている。人気アイドル・福元幹に憧れている小路が、憧れのセーラー服を着るために中学校に入学し、クラスメイトとの出会いを通して成長していく物語は多くの視聴者を虜にしている。物語のなかでは人生を揺るがすような大きな出来事が起こるということはなく、小路を中心に学校の日常生活がみずみずしく丁寧に描かれているのが特徴だ。
『明日ちゃんのセーラー服』の魅力をひと言で表現すれば、振り返れば一瞬で過ぎ去っていく青春の“ときめき”が凝縮されているということだろう。第1話では、小路が憧れのセーラー服に袖を通して、中学校への初登校するまでが描かれているが、セーラー服を仕立てる母親が気になって仕方がない小路の心躍っている様子や、初めてのクラスメイトと出会うまでの胸の高鳴りなど、新しい環境に足を踏み入れる小路の些細だけれども、かけがえのない一瞬が描かれている。
大人になっても小路たちが経験するような青春の甘酸っぱい思い出は、忘れることなくいつまでも覚えているもの。思い返して見ると、誰もが中学校に入学したとき、クラス替えがあったとき、初めての出会いに胸を弾ませてワクワクしていたのではないだろうか。もちろん、クラスメイトは自分を受け入れてくれるだろうかとか、あの子はどういう性格なんだろうとか、数え切れないほどの不安もあるし、小路も入学前は多くの不安を抱えていた。そんな複雑に入り混じった青春の記憶はいつになってもかけがえのないものだ。
入学したばかりの小路は、クラスメイトと仲良くなろうと、名前をノートに書き留めたり、積極的にコミュニケーションをとったり、学校生活への期待感に溢れている。そんな小路の健気でひたむきな姿勢がとても愛おしい。第2話の自己紹介では高まる気持ちが空回りしてしまい、大胆にもバク転を披露して下着が見えてしまいクラスメイトをドン引きさせたこともあった。それでもクラスメイトは小路を温かく迎え入れ、「もっと知りたい」と小路に惹かれていく。誰も小路に対してネガティブな感情を抱くことはなく、優しく受け止めてあげるクラスメイトばかり。そんな誰も傷つかない優しい空気感で溢れているのが本作の魅力である。
このようなストーリーの面白さはもちろん、美しい作画もまた本作の見どころのひとつだろう。放送後にはSNS上で作画に対する称賛のコメントが多く寄せられている。本作はとにかく作画の力の入れようがものすごく、日常アニメに求められる作画の水準を遥かに超えているのだ。町並みにしろ、自然の風景にしろ、教室の床にしろ、深夜アニメとは到底思えないような写実性のある高いクオリティで視聴者を圧倒している。
また背景と同様、いやそれ以上にこだわりを強く感じるのが人物描写だ。『明日ちゃんのセーラー服』は原作でも小路の動きが躍動感たっぷりに描かれており、本作の真骨頂とも言える部分でもある。漫画1巻の冒頭のバク転や2巻の縄跳びのシーンなどは10ページ以上も費やしているのだから驚きだ。また、本作では木崎江利花が爪の匂いを嗅ぐシーンや小路が唇をつまむシーン、谷川景の脚の自撮りシーンなど、細部にこだわった仕草も数多く散見され、原作でもその描写には特に力が入れられている。