『ファイトソング』は清原果耶の個性が活かされたドラマに 平熱だからこそ染みるやりとり
『ファイトソング』(TBS系)が最終回を迎えた。
火曜ドラマで放送された本作は、元・空手選手の木皿花枝(清原果耶)と一発屋のミュージシャン・芦田春樹(間宮祥太朗)のラブストーリーだ。
主演は、連続テレビ小説(以下、朝ドラ)『おかえりモネ』(NHK総合)で主演を務めた清原果耶。脚本は朝ドラの『ひよっこ』(NHK総合)や『にじいろカルテ』(テレビ朝日系)といった数々の連続ドラマを手掛けている岡田惠和。
朝ドラヒロインを務め上げた俳優の次回作は毎回大きく注目されるのだが、清原果耶が火曜ドラマに出演すると知った時は少し心配だった。『おかえりモネ』を筆頭に、清原の代表作はNHKのドラマが多く、最初に俳優として注目されたのは朝ドラの『あさが来た』(NHK総合)。過酷な運命や状況に置かれた少女を演じることが多く「物静かで落ち着いていて真面目」というのが俳優・清原果耶のイメージだった。
対して火曜ドラマは、明るく楽しいラブコメディを得意としているドラマ枠で、真面目なNHKとは真逆のキラキラとした世界である。そのため、清原の個性とは相性があまり良くないのではないか? と心配だった。
だが、NHKでも民放でも執筆し、硬軟どちらにも対応できる岡田惠和が脚本を担当することで、両者の個性をうまく融和させた新しいドラマが生まれるのではないかという期待もあった。そんな期待と不安が入り混じった状態で、本作を追いかけていたのだが、清原果耶、火曜ドラマ、岡田惠和の三者の個性がうまく活かされた新しいラブストーリーに仕上がったというのが、最後まで観終えた印象だ。
まず、第1話では花枝と春樹の辛い状況が描かれた。
交通事故で聴神経腫瘍が発覚して空手を辞めた後、燻った日々を過ごしていた花枝と、あと2カ月で結果を出さなければ契約を打ち切られる春樹。物語のトーンは重くてシリアスで、不幸な境遇を生きる花枝は今まで清原が得意としてきた役柄の延長線上にある人物像だと言える。
そんな彼女がミュージシャンの春樹と出会い、両親との思い出の曲だった「スタートライン」の演奏を聞いて涙を流す場面は圧巻で、火曜ドラマならではのキュンキュンするシチュエーションだった。
その意味で清原果耶と火曜ドラマの良さが強く出た第1話だったと言えるのだが、面白いのはこの後を描いた第2話。
その場の勢いで「俺と付き合ってくれない?」と言ってしまった春樹に対し「いらないです」と花枝はきっぱりと断る。自分にとって「感動」的な時間だったのに、恋愛に落とし込もうとした春樹を「軽っ」と言って否定するのだが、花枝が醒めたトーンで自分の心情を早口で語る場面は、岡田惠和らしい台詞回しだ。
同時に「音楽に感動すること」と「恋に落ちること」は別だと釘を刺すスタンスは、とても現代的だとも感じた。その後、付き合ってほしいと言ったのは「曲作り」のためだと春樹から説明された花枝は、2カ月の期間限定で提案を受け入れる。