NHK「よるドラ」はいかにして生み出されてきたか プロデューサー3人に聞くこれまでの歩み

 2018年からスタートしたNHK「よるドラ」は、先鋭的な作品を制作するドラマ枠として大きな注目を集めてきた。4月からは「夜ドラ」と名前が改められ、月~木の22時45分から15分ずつ放送という形にリニューアルされる。そのため、現在のよるドラは3月21日に最終回となる『恋せぬふたり』で一区切りとなる。

 このたび、リアルサウンド映画では、立ち上げからよるドラに深く関わり『ゾンビが来たから人生見つめ直した件』(以下『ゾンみつ』)、『腐女子、うっかりゲイに告る。』(以下、『腐女子』)のプロデュース、『ここは今から倫理です。』『恋せぬふたり』の制作統括を担当した尾崎裕和、『腐女子』の演出と『伝説のお母さん』と『恋せぬふたり』のプロデュースを担当した上田明子、『だから私は推しました』と『きれいのくに』のプロデュースを担当した高橋優香子の3名に、よるドラについて振り返ってもらった。

 数々の話題作、問題作を生み出してきたよるドラの作品はどのようにして生み出されたのか? そして、何を残すのか。(成馬零一)

よるドラから生まれたさまざまな企画

――4月から、よるドラ枠が変わるそうですが。

尾崎裕和(以下、尾崎):改編については昨年(2021年)から局内で議論がありました。色々なことを変えることで幅広い層に観てもらい「新しいNHKらしさ」を認知してもらいたいということで、2月に発表になったという感じです。

上田明子(以下、上田):よるドラは20~30代のディレクターやプロデューサー自身が「どういう枠にしていきたいか」ということを考えて作ってきました。若手が自分の中に内在するテーマに突き動かされる形で企画を書いて自分の手で実現できる貴重な場所で「自分の表現に責任を持つとはどういうことか考えながら、コンセプトを立てて企画を作ること」を経験できたことはすごく大きかったです。だから、個人的にちょっとさみしいし、そういうことができる枠を今後、勝ち取るにはどうしたらいいのかを考えないといけないなぁと思いました。

高橋優香子(以下、高橋):知った時は「無くなっちゃうんだ」とびっくりしました。同時に「寂しい」という気持ちもありましたね。でも枠の形が変わって月~木15分という形になることで、今までとは違った層にリーチできる可能性があるので、それはそれで楽しみだというのもあります。

――よるドラには、独自のテーマや切り口があり、ネットと親和性が高いドラマ枠だったと思うのですが、作り手のみなさんは、SNS時代のドラマの視聴者との相性についてはどのようにお考えでしたか?

尾崎:2018年によるドラ枠が立ち上がった時は、NHKプラスという「これからはじまる配信サービスに対応できる作品を作れないか」という要請があったんですよ。そこから「若手の企画によるネット時代に親和性の高いドラマを作りたい」という思いが湧き上がって生まれた枠だったので「ネットとの親和性」は狙いどおりだったと思います。

上田:必ずしも、ネットで受けようと思って作ったわけではないことが大事だったと思います。ニッチかもしれないけど自分が見たい、作りたいと思えるもの。少ないかもしれないけど、テーマに深く共鳴してくれるお客さんがいるかもしれないと信じられるテーマを題材にした企画が、結果的に選ばれていました。

尾崎:考え抜かれた強いテーマがあればネットでも共感を得られるはずと思って作っていました。それぞれの作品に深いテーマ性が内在していることがよるドラの魅力だったのかなと思います。

上田:自分が「これをやりたい」と思うテーマがあっても、20~30代前半だと、なかなか実現できる機会が少なかったので、これは自分たち若手が作る枠だと企画段階から思えました。

高橋:枠のサイズもよかったと思います。43分で10話ぐらいのものをしっかり作ろうとなると「あまり遊べない」といいますか、手堅いテーマを選びがちになってしまうような気がして。対して、よるドラの30分×8話だと良い意味で一点突破できる。だから、いろんなテーマに挑戦しやすかった。

――よるドラの作品はどのような流れで作られていたのですか?

尾崎:基本的には「よるドラ・プロジェクト」という形で企画を出し合い、それを元に編成と話し合って進めていくという流れで、立ち上げの時から作られてきました。

高橋:「よるドラ・ミーティング」という、それぞれのディレクターやプロデューサーが、自分の書いた企画書を提案し、良いところや足りないところを指摘し合うディスカッションを繰り返す中でブラッシュアップしていくというやり方をとっていました。1~2週間に1回、朝の決まった時間にリモートで行っていたのですが、他の班の先輩や東京でドラマを作っている方々と交流できる時間で、すごく刺激的でした。

『腐女子、うっかりゲイに告る。』写真提供=NHK

尾崎:システムというほど綺麗なものではないですけど、みんなで「この企画はどうなんだ」と話し合った上で、進めていく流れがあったと思います。

高橋:当時は大阪放送局で助監督をやっていたのですが、日々の業務に忙殺されている中で、刺激がほしくて「提案」を書いていました。「何が何でもこの企画を通したいんだ」と思って参加したわけではなくて、他の人がどういう提案を書いてどういうプレゼンをするのかってことに対する興味があったんですよね。

上田:若手が企画を出し合ってディスカッションして、少し年長の先輩がオブザーバーとしていっしょに聞いていてくれたのですが、同世代と先輩たちで結構反応が割れたりするのもまた面白いなぁと思いながら、参加していました。

高橋:「どのようにその提案が生まれたのか」ということをプレゼン相手以外のディレクターたちにさらけ出して、これはここが面白い、そこは面白くないということを平場で聞けることは、これまであんまりなかった気がします。

尾崎:「こんなことやりたいんです」みたいな一枚のペラから立ち上げることも多かったです。本当は「これなら視聴率がとれる」みたいなしっかりとした根拠が書かれていないとドラマの企画書ってなかなか通らないのですが「これ面白いよね」みたいなアイデアを育てて広げていくみたいなプロセスがよるドラの企画にはあったと思います。

高橋:どの枠にもハマらないけど興味があるテーマ、当時の私にとってはそれが「地下アイドル」だったのですが、今ある枠にはハマってないけどやってみたいなというテーマを持っていける場だなって思って楽しんでいましたね。

上田:「この企画では「30分×8話」は持たない」と先輩に言われた提案が、結果的に実現していたりするんですよね。今まで形になってないということは、実現するためのハードルを超えることができなかったからで「ここはどうするの?」と聞かれる。でも、逆にそう指摘されると「今までにないものや新しい種がそこにあるかも」と思えるようになるのが面白かったです。

高橋:フィードバックを受けて、自分の考えを掘り下げつつブラッシュアップして、「若い世代に響くテーマになるんじゃないか」と突き詰めることで生まれた作品が多かった気がします。だから、あの会議にはすごく感謝しています。このミーティングに参加し続けたいと思って、毎回、提案を出していました。

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