ディズニーがピクサー映画の同性愛シーンをカット 従業員が内部告発したその詳細とは

 ディズニー&ピクサー最新作『私ときどきレッサーパンダ』が、3月11日よりディズニープラスにて独占配信となる中、ディズニーとピクサーの間では、ディズニーによるシーン検閲に関し、物議を醸す事態となっている。

 Varietyが入手したピクサー従業員による声明文の中で、ピクサーの映画が、親会社であるディズニーにより、同性愛に関するシーンがカットされていることについて告発された。

 ピクサー従業員による本声明の背景には、米フロリダ州で3月8日(米現地時間)に可決された、通称「ゲイと言ってはいけない法案(”Don’t Say Gay” bill)」(州内の学校で、性的指向や性自認について議論することを事実上禁止する法案)に対するディズニーの対応が関係しており、法案を支持する議員(議会)に対する寄付や、法案についての態度を明確に示さなかったとして、ディズニーに対し、従業員をはじめとする内部からの批判が高まっていた。

 これを受け、ディズニーCEOボブ・チャペックは、3月7日(米現地時間)に、全従業員向けにメールを送信し、事態について説明したが、ピクサー従業員はチャペックのコメントに対して異議を唱え、声明を発表した。

 チャペックは、「この戦いは他のどの州の、どの法案よりも大きなものであるため、私たちの会社が永続的な変化をもたらすうえでの最善の方法は、文化を歓迎し、多様なコミュニティを支援し、人々を鼓舞する“感動的なコンテンツ”をつくることであると信じています」と述べた。これに対しピクサー従業員は声明の中で、「私たちピクサーは、多様なキャラクターが登場する美しいストーリーが、ディズニーによる審査によって削られ、かつてのオリジナル要素が失われた状態で、戻される事実を直接みてきました。ピクサーのクリエイティブチームと、経営陣の両サイドから抗議があったとしても、ディズニーの意向で、あからさまな同性愛の表現は、ほとんど全てカットされてしまいます。LGBTQIA+のコンテンツを作ることが、世の中の差別的な法律を正す答えだとしても、私たちはそれらを作ることを禁じられているのです。“感動的なコンテンツ”よりも先に、私たちは、行動を求めているのです」と述べ、ディズニーによるシーンカットについて告発した。

 またチャペックは、3月9日(米現地時間)に開かれた株主総会にて、「ゲイと言ってはいけない法案」について、それまで法案に対する態度を示さない姿勢をみせていたが、はじめて公の場で反対を表明した。彼は、ヒューマン・ライツ・キャンペーン財団Human Rights Campaign(以下、HRC)をはじめとするLGBTQ+団体に500万ドルを寄付することを発表し、フロリダ州のロン・デサンティス知事との電話でのやりとりで、「本法律が州内の個人や団体によって、ゲイ、レズビアン、ノンバイナリー、トランスジェンダーの子供や家族を不当に傷つけたり、標的にしたりするための武器となること」に対する懸念について話し合い、ディズニー経営陣のLGBTQ+メンバーと共に、知事と面会予定であることを明かしている。

 これを受け、ピクサー従業員は、ディズニーが「ゲイと言ってはいけない法案」を支持したすべての議員(議会)への財政支援を撤回するよう要求を求めたうえ、「HRCへの寄付は、正しい方向への一歩ですが、今回の株主総会だけでは不十分であることが明らかになりました。株主総会を通じて、ディズニーはLGBTQIA+コミュニティを支援する強い姿勢を見せず、両サイドをなだめようとし、質疑応答時間で共有された、悪意のあるメッセージについても非難はしませんでした。これは、LGBTQIA+の従業員と家族、そしてコミュニティを明確に支持するということではありません」と述べている。

 また、HRCのジョニ・マディソンは声明の中で、「企業の力は、LGBTQIA+の権利のための戦いに大きな影響を与え、これからも与えていくでしょう。ディズニーは、フロリダ州のLGBTQIA+の家族(ディズニーで働く従業員を含む)に対する政治的な攻撃の中で、沈黙を選ぶという残念な姿勢を取っていましたが、今日、正しい方向への一歩を踏み出しました。しかし、これは単に最初の一歩に過ぎません」「どのような人であるかに関係なく、すべての生徒が(平等に)見られる権利があり、すべての生徒が健康と成功のために必要な教育を受ける権利があります。これは、ディズニーの擁護活動の終わりではなく、始まりであるべきなのです」と述べ、公約に対し、ディズニーが案に対抗する“意味のある行動を取るまで”寄付金を拒否することを表明した。

 さらに、ピクサー従業員による声明では、「ディズニーが自社の価値観を大切にし、立ち上がることで、過去に法律の流れが変わったこともあります。ディズニーが価値観に忠実であり、フロリダ州で起きている今回の法案に対し断固として公的立場を取ったとすれば、法案の影響を受けているLGBTQIA+コミュニティに対し、具体的な支援を提供することになるでしょう」と述べられており、ディズニーがフロリダ州において大きな影響力を与える企業でもあるため、彼らが立ち上がることの影響力の大きさについて言及している。

 法案について、デサンティス知事は支持を示しているが、署名はまだしておらず、確定はされていない。法案が確立すると、7月1日(米現地時間)より施行される予定だ。

参照

Disney Censors Same-Sex Affection in Pixar Films, According to Letter From Employees|Variety
Why Disney Won’t Say Much About Florida’s “Don’t Say Gay” Bill|The Hollywood Reporter
Disney CEO Bob Chapek breaks silence on Florida’s ‘Don’t Say Gay’ bill|NEW YORK POST
Disney CEO responds to ‘Don’t Say Gay’ bill controversy with dismay, donations, and a belief in Florida politicians|Polygon

関連記事