『鎌倉殿の13人』菅田将暉が魅力溢れる“狂気”の義経に 史実につながる梶原景時の台詞も

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第8回「いざ、鎌倉」。挙兵した源頼朝(大泉洋)を討つため、平清盛(松平健)は追討軍を送る。一方、頼朝軍は上総広常(佐藤浩市)らを加え、平家方として兵を率いていた畠山重忠(中川大志)も味方となるなど、勢いを増していた。

 第8回は、源義経(菅田将暉)の人物像と、のちに義経追討の要因を作る梶原景時(中村獅童)の人物像がすんなりと理解できる演出に驚かされた。

 忠臣を連れて奥州をたった義経は、その道中で野武士(慈五郎)と野兎を奪い合うことになる。野武士は義経に矢を向けるが、忠臣たちが身構える中、義経は冷静だった。義経は矢の飛距離を争う勝負を持ち掛けるのだが、野武士が弓を引いた後、義経は野武士に向かって矢を放った。義経演じる菅田の「今夜は兎汁だ」と話す姿は無邪気だ。野武士を射殺した菅田の表情はゾッとするほど落ち着いているが、その後「まずは富士山だ〜!」と進んでいく義経は天真爛漫な顔つきをしている。矢の勝負では勝てないから騙し討ちにした、義経にとってはただそれだけのことなのだ。菅田の人懐こそうな笑顔とふと見えた冷淡な表情から、義経の純粋さは狂気にも思えた。

 相模では藤平太(大津尋葵)が義経一行に芋の煮物を差し入れた。忠臣たちは箸で芋を挟めずまごつくが、義経は箸を突き刺してそれを頬張る。義経の行為は、常識のない野蛮な行為にも、常識にとらわれない柔軟な行為にも映る。義経は口いっぱいに芋を頬張りながら、意気揚々と「参るぞ、武蔵坊!」「鎌倉は目の前じゃ!」と声をあげた。かと思えば、潮の香りに惹かれ、海へと駆け出していく。義経の突飛な行動を菅田の演技なしで見れば、ただの卑怯者で、自分勝手な人物に映るかもしれない。だが、菅田が自信に満ち溢れた表情で台詞を発し、義経の感情を楽しそうに演じているおかげで、自分の欲求に率直な義経が恐ろしくも魅力的に感じられる。たった2度の登場シーンだが、軍略の天才として名高い義経の今後の活躍が垣間見えた。

 そして義経が悲劇の武将となるきっかけも。第8回で頼朝の味方となったのは重忠だけではない。平家方にいながら山中に潜む頼朝を捕らえずに立ち去った景時は、頼朝の大軍勢にうろたえる大庭景親(國村隼)に見切りをつけた。景親をまっすぐに見据え「某は大庭殿の家人ではござらぬ」と言い切った、中村の堂々たる姿は強く印象に残る。

 義時(小栗旬)が景時の館へやってきたとき、景時は盆栽を嗜みながら「某、大庭殿とは袂を分かったところ」と伝える。驚く義時に彼は淡々とこう言った。

「粗暴な男は苦手でな」

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