深津絵里が見せた“母”への変化 『カムカム』るい編がたどり着いた母の強さと静かな和解
「いいの? しんどくならへん?」
「なるかも。でも、わかるときが来るかもしれへん。なんでお母さんが私を捨てたんか」
「やってみよ。2人で」
そう言って優しくるいの肩をさする錠一郎。この圧倒的な精神的支えがあったからこそ、るいが、あんこ、そしてやがてはラジオ英会話と、安子を思い出すものと少しずつ向き合っていけた。いつもジョーが肩をさすってくれたから、るいがひとつひとつ確認しながら、前に進めたのだろう。
そして、最愛の娘・ひなたからも救われる。幸い足のかすり傷で済んだものの、ひなたがケガをして、るいが肝を冷やした日の夜、ひなたがるいの額の傷を差して「お母ちゃんのこれ、旗本退屈男みたいでかっこええな」と言う。安子との確執の象徴でもある、るいの額の傷。それをひなたが肯定する。つまりは娘から、「あなたはそのままでいい」「そのままのあなたを愛している」と言われたのだ。これはかつて、トランペッターというアイデンティティを失い暗闇に堕ちていた錠一郎に対して、るいが働きかけた思いと同じだ。喜びも悲しみも家族で一緒に分かち合う。これが、るいが何よりも安子と一緒にしたかったことなのかもしれない。
英語を習いたいと言い出したひなたに、ラジオ英会話を薦めるとき。ひなたのためにテキストを買ってきて、筆記体で名前を書いてあげるとき。「アメリカってどこにある? 遠い?」と聞かれ、「ちょっと遠いね」と答えるとき。優しい微笑みを湛えたるいの中から、かつてはその胸をチクリと刺していたものが、なくなっているように見えた。
第15週「1976-1983」での「るい編」のラストシーンと言える、川辺での母娘の語らいが忘れられない。何をやっても長続きしない、ダメな自分に苛立ち、父と母に八つ当たりをして家を飛び出したひなたの心を、るいがほぐしていく。泣きじゃくるひなたを膝に乗せ、抱きしめながら言う。
「心配せんでええ。今は真っ暗闇に思えるかもしれんけど、いつかきっと光が差してくる。ひなたの人生が輝くときがくる」
かつて、るいが海の中でジョーを抱きしめながら彼にかけた愛の言葉を、今度はひなたに贈る。ひなたを抱きしめながら、子どものときの自分を抱きしめた。そして安子を抱きしめた。これが「るい編」の帰着点ではないだろうか。
拗ねて泣いているひなたの背中に向かって、“モモケン”(尾上菊之助)の決め台詞をまねて「お母ちゃん、見参!」とおどけてみせたるい。そのどっしりとした、ゆるぎない愛情が、なんとも頼もしかった。「強くて優しくて、絶対に泣いたりしいひん。弱音なんか吐かへん。こうと決めたことは命がけでやりとげる」と、ひなたが憧れる「侍像」。これはまさにるいのことではないか。大切な家族を命がけで守る、大好きなお母ちゃんこそが、ひなたにとっての“スーパーヒーロー”なのかもしれない。
もちろん、この後もるいの人生は続いていく。初代ヒロインがきっぱりと“退場”した「安子編」の終わりとは対照的で、「るい編」は、始まったばかりの「ひなた編」と併走していくことになりそうだ。愛する家族とともに、これから先、るいはまた新たな「ひなたの道」を見つけていくことだろう。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか
写真提供=NHK