本郷奏多演じる文四郎がひなたの心に火をつける? 『カムカムエヴリバディ』男性陣の魅力

 朝ドラ史上初となる3人のヒロインが100年の歴史を紡いでいく『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)。彼女たちの運命を変える出会いはいつもカウンター越しに果たされる。祖母の安子(上白石萌音)と母のるい(深津絵里)に続き、高校生になった娘・ひなた(川栄李奈)にもその時がやってきた。

 2月10日放送の第71話で初登場となったのは、五十嵐文四郎(本郷奏多)。無愛想で初めて会ったひなたをじっと睨みつける彼はどんな人物なのか。店番を任されたヒロインの前に現れ、色んな意味で心をかき乱してきた男性陣の魅力を振り返りながら、五十嵐とひなたの未来を占っていきたい。

 1925年、日本でラジオ放送が始まった日に生まれた安子。甘いあんこの香りと愛情をたっぷり注いでくれる家族に囲まれ、彼女はごく普通の幸せな14歳の女の子に育った。しかし、まだ女性の自己実現が叶わなかった時代。安子は女であるという理由だけで菓子職人になることは許されず、高等小学校を卒業した後は当たり前のように、祖母や母と同じく家事手伝いに徹して男性たちを支えていた。

 そんな安子の世界を大きく広げてくれたのが、大学生の稔(松村北斗)だ。地元で有名な名家・雉真家の跡取りとしてふさわしい教育を受けた彼は知的で、その上品な佇まいは絵本の中に出てくる王子様を思わせた。それでいて家柄の良さを鼻にかけることは一切なく、安子に作品の核となるラジオ英語講座の楽しみ方を教え、時には学生服姿のまま全力で自転車の練習に付き合う。志半ばで戦争に命を奪われた稔だが、生前安子に授けた力は彼女の人生を少しだけ自由なものにした。そして、安子と出会ったことでレールの敷かれた人生を歩んでいた稔自身も、わずかな時間でも自分で選び取った“ひなたの道”を歩くことができたのだ。

 そんな安子と稔が歩むはずだった道を未来へ繋いだのが、るいと錠一郎(オダギリジョー)。しかし、るいの場合、最初に恋に落ちたのは弁護士の卵である片桐(風間俊介)だ。過去を断ち切るように大阪で新生活を始めたるい。それなのに彩りある人生を放棄しているかのような彼女の心を動かしたのは片桐であり、彼が持つ安心感は稔とも共通していた。一方、時を同じくしてお店に現れた錠一郎は一貫性のない洗濯物を預け、すぐに立ち去る不思議な人。掴みどころのなさから“宇宙人”と名付けた錠一郎に、るいはペースを乱されまくり。でも却ってそれが想像の範疇に収まっていたるいの人生を外へ連れ出すことに繋がった。

 なぜ、るいは片桐ではなくと錠一郎と人生を歩むことに決めたのか。それは優しさ故に額の傷を見て何事もなく振る舞った片桐とは対照的に、錠一郎がるいの過去も傷も丸ごと愛してくれる人だったからだろう。お月さまのように穏やかな彼のそばで、痛みの伴うるいの思い出も少しずつ優しいものに変わる。だから錠一郎にとって希望の象徴だったトランペットを吹けなくなり、自分と同じ喪失を抱えた時、今度はるいが暗闇でしか見えない光となった。過去を愛し、同時に囚われることなく、二人は隣り合わせでひなたの道を模索してきたのだ。

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