ティルダ・スウィントンの“気品”の探求 ウェス・アンダーソンら作家との蜜月が独自性に

仮死の身体/存在と消失

「彼女は自分のことを、この映画の中で責任を分かち合う労働者の一人だと考えています。彼女は物語だけでなく、フレームに収まっているものに貢献する、すべてのものを同調させるために存在しています。ある意味、彼女は私や他の人たちと同じように映画作家なのです」(アピチャッポン・ウィーラセタクン)※4

 『MEMORIA メモリア』において、スウィントンは「仮死の身体」を画面に同調させている。スウィントンがガラス箱の中のマットレスで寝るという2013年にMOMAで展示されたパフォーマンス・アートを想起させるこの作品の主人公ジェシカは、まるで目的意識を失って路上を彷徨しているゾンビのようでさえある(ジェシカという名前はジャック・ターナー監督の『私はゾンビと歩いた』のヒロインへのオマージュ)。

『MEMORIA メモリア』(c)Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021. Photo: Sandro Kopp (c)Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF-Arte and Piano, 2021

 声を失ったロックスターを演じた前述の『胸騒ぎのシチリア』や、息子(エズラ・ミラー)との主従関係が逆転し、家庭内における残酷な支配が始まる『少年は残酷な弓を射る』(リン・ラムジー監督/2011年)のように、近年のスウィントンは抗えない何かに支配された際の、心のどこかが硬直してしまった身体をフィルムに投げ出している。『MEMORIA メモリア』のスウィントンは、その延長線上にあり、かつその身体は、これまで実践してきた「存在の絶対性」や「変身」の概念を最新型にまで拡げられている。スウィントンは、この夢魔的な映画の中で、分かりやすい「狂気」の表象から一番遠いところにいる。ジェシカは、空洞となった身体の中に、探し求めている音を響かせることだけに執着している。夢の中に聴こえる音の記憶を再現するスタジオのシーンが出色だ。ふいに名前を尋ねられたジェシカは、返答ができず、まるでその場から幽体離脱を起こしている。ジェシカの身体は一時的な仮死状態にあるのだ。アピチャッポン・ウィーラセタクンとスウィントンは、存在の稀薄性を描くことで、逆説的にジェシカの身体よりも大きな「存在の絶対性」を霊的に浮かび上がらせている。2004年のカンヌ国際映画祭の審査員としてウィーラセタクンの『トロピカル・マラディ』を観たスウィントンは、この作品に描かれた境界線のなさに大きく惹かれてたのだという。それ以来お互いに連絡を取り合ってきた末に『MEMORIA メモリア』はある。本作において、スウィントンの消失していく身体は、見事に作品と同調している。二人のアーティストが持つ異なる資質が同調した、奇跡的なコラボレーション作品の誕生を祝福したい。

『MEMORIA メモリア』(c)Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF/Arte and Piano, 2021. Photo: Sandro Kopp (c)Kick the Machine Films, Burning, Anna Sanders Films, Match Factory Productions, ZDF-Arte and Piano, 2021

 スウィントンの背景には、ジャーマンを皮切りにオルタナティブな英国現代映画作家の名前が浮かび上がってくる。ハーモニー・コリンが崇拝する伝説的な映画作家アラン・クラークの作品で衝撃的にデビューしたティム・ロスの監督作品『素肌の涙』(1999年)、サリー・ポッター、リン・ラムジー、そしてオナー・スウィントン・バーンと親子で共演した『スーヴェニア -私たちが愛した時間-』(2019年)のジョアンナ・ホッグ。ホッグとは、美しい短編『Caprice(原題)』(1986年)からの長い付き合いだ。この短編で、スウィントンは、ファッション雑誌やデザインの世界の中に自身の居場所を見つける女性を演じている。スウィントンが、そのキャリアを通して一貫して探求している、「存在の絶対性」や「変身」「境界の欠如」のルーツと、この作品はどこかで繋がっている。スウィントンは、一貫して自分と同じ惑星に住む人を探している。それは絶対的な気品を持つアウトサイダーたちへ向けられた共感であり、彼らへの「悼み」なのかもしれない。デヴィッド・ボウイの『アラジン・セイン』のレコードジャケットを目にした少女時代のスウィントンは、こう思ったのだという。「彼は私に似ていて、同じ惑星から来た人のように見えたのです」(※5)。

参照

※1 .https://www.theage.com.au/culture/movies/i-was-kind-of-a-boy-for-a-long-time-tilda-swinton-on-fluidity-and-her-mistaken-career-20210721-p58bmg.html
※2. https://www.anothermag.com/design-living/13647/tilda-swinton-on-great-cinema-french-dispatch-film-2021-interview
※3. https://www.numero.com/en/cinema/actress-tilda-swinton-interview-suspiria-luca-guadagnino-dario-argento-danse-sorcieres-olivier-joyard-portraits-dominique-isserman-burn-burn-after-reading-only-lovers-left-okja-numero-magazine
※4. https://variety.com/2021/film/actors/tilda-swinton-cannes-doctor-strange-memoria-french-dispatch-1235007107/
※5. https://www.thedailybeast.com/tilda-swinton-on-david-bowie-he-looked-like-someone-from-the-same-planet-as-i-did

■公開情報
『フレンチ・ディスパッチ ザ・リバティ、カンザス・イヴニング・サン別冊』
全国公開中
監督・脚本:ウェス・アンダーソン
出演:ベニチオ・デル・トロ、エイドリアン・ブロディ、ティルダ・スウィントン、レア・セドゥ、フランシス・マクドーマンド、ティモシー・シャラメ、リナ・クードリ、ジェフリー・ライト、マシュー・アマルリック、スティーブ・パーク、ビル・マーレイ、オーウェン・ウィルソン、クリストフ・ヴァルツ、エドワード・ノートン、ジェイソン・シュワルツマン、アンジェリカ・ヒューストンほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
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