『未体験ゾーンの映画たち』 はコロナ禍にも屈しない? 担当者と振り返る10年の歩み
「未体験ゾーン」に見る、10年間のホラーシーンの変化
――ちょうど「未体験ゾーン」が歩んできた10年間は、ホラー映画シーンでも新進気鋭の監督がたくさん登場した時期でもありましたが、その変遷についてはどう思いますか?
吉川:未体験に限るか限らずかですが、うちが上映している作品はやはり基本的にビデオスルーされるタイプのものが多くて、その中でもメインストリームと同様、やはり変わってきているなと思うことはあります。例えば、昔はそれこそ第1回目の「未体験ゾーン」で『ヘルレイザー:レベレーション』を上映したんですよ。昔はそういうピンヘッドやチャッキーなどのキャラクターによるホラーが多かったと思います。しかし、低予算で作れるPOV映画が出始めたあたりですかね。『パラノーマル・アクティビティ』とか『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』とか、あの辺が出てきたあたりから、キャラクターではなくシチュエーションで、しかも低予算でも撮れることに世界のクリエイターが気づいて、映画作りに手を出しやすくなったと思います。そうすると今度はシチュエーションのアイデアが流れ、増えてくるようになったなと感じますね。それこそメインストリームでは『ドント・ブリーズ』とか『イット・フォローズ』などがありましたが、ああいったシチュエーションものが流行ると、ビデオスルーされる、いわゆる“B級寄り”の作品にもその潮流は反映されるんです。こういうふうに低予算で手が出しやすい映画作りを、みんなが楽しんでやるようになったとは感じています。
――特にその流れで気になる近年増えてきたシチュエーションのタイプはありますか?
吉川:今年の選出作品には人狼ゲームをベースにした『人狼ゲーム 夜になったら、最後』や、脱出系の作品が2つあったりして、そういうゲーム性の高いホラーはここ最近増えたような気がします。日本でもデスゲームものは増えてきていますし、昨年は『イカゲーム』(Netflix)が日本に限らず海外でもすごく観られましたよね。海外からもやはり去年ぐらいからデスゲームジャンルの流行りがあるのを感じています。遡れば『SAW』とかもそういうシリーズとしてすでにあったと思うんですけどね。
――「未体験ゾーン」作品の中にもやはり時代に伴って変化が見られると。
吉川:はい、例えば『ゲットアウト』ぐらいから、ホラー映画における黒人の扱いにも変化があるように感じていて。2021年の「未体験」に『バッド・ヘアー』や『ファブリック』という作品を上映しましたが、黒人女性が主人公のものが増えてきた気がします。以前はやはり、そういったホラー映画の主人公は金髪の女性の印象が強かったから。
――作品の主人公の人種が多様化しているのは、やはり時代の変化を感じますね。現在は監督側も人種や性別が多様になってきていますが、そういった作り手の変化も取り扱う作品の中に感じますか?
吉川:逆に「未体験ゾーン」に関しては昔からなんですけど、本当に各国の作品を取り扱うんですよ。メインストリームのハリウッド作品とかではなくて、スペインやアルゼンチン、メキシコなど、有名な監督になってからじゃないと日本では上映されないような作品をずっとやっているので、ある意味そこの変化はないんです。監督に関しては本当にいろんな国の方の作品を取り扱っています。チラシを作ったり、本編を観たりしていると、名前の読み方が全くわからない監督も少なくなくて。その中でも面白い作品はもちろんあるから、むしろ最初から「未体験」は多様性に富んでいたと思います。
ビデオスルー作品から羽ばたいていく監督たちに共通する“光るもの”
――様々な国の作品を取り扱っているからこそわかる、各国のホラーの特色はありますか?
吉川:韓国はやっぱり復讐ものが多いですね、他にも作られていると思いますが、(観客に)求められているのが恐らくそれなので、買い付ける作品も復讐ものが増えてそういう印象があるのかもしれませんが。あとはスペインの映画はシッチェス映画祭があるからかと思うのですが、スペインホラーは変な……というとあれですが、ちょっと光るものがあるのを感じます(笑)。アメリカはもう本当に色々ある印象です。あと、北欧系のホラーは映っている風景が曇天なので、ずっと雰囲気があるような映画が仕上がる印象がありますね。
――“光るもの”、ですか。
吉川:はい、“スタイルの仕上がり”……かな。まず、どの作品にもハッとさせられるシーンやショットがあるんです。ただ、例えばすでに売れている監督の初期作品を上映することが結構多いですが、そういう作品からは、最初から監督のスタイルが決まっていたことがわかります。数年前にニコラス・ウィンディング・レフン監督の初期の『FEAR X フィアー・エックス』という作品を上映したことがあって、すごく面白いかと言われるとちょっと……と思いますが、レフン監督がもう“出来上がっている感じ”は凄くしました。光るもの、というか、監督のスタイルがすでに出来上がっているなと思う作品に関してはやはり、今後も売れていく予感がします。
――これまで「未体験ゾーン」でも数えきれないほどの作品を上映し、ご覧になってきたかと思いますが、そんな吉川さんがいま気になるホラー映画と監督を教えてください。
吉川:さきほど紹介した『ファブリック』のピーター・ストリックランド監督は面白いなぁと思っています。あと「未体験ゾーンの映画たち 2022」の作品でいうと、『マザーズ』のアリ・アッバシ監督や、『デモニック』のニール・ブロムカンプといった、ちょっともう知られている監督に惹かれちゃいますね、やはり。今年は“ザ・新人”を見つけられなかったかな……。『デモニック』に関しては、プロムカンプ監督がもう『第9地区』を撮った後のものだから、やはりこなれてきている感じはするんですけど、『マザーズ』はやはりアッバシ監督のデビュー作ということで、先ほどの話にも通じますが、『ボーダー 二つの世界』の気持ち悪さがすでにありつつ、まだ初々しい感じがする点に惹かれましたね。
――2022年以降のホラーシーンには、何を期待していきたいですか?
吉川:個人的にはやはり「未体験ゾーン」で扱っていた監督が有名になっていくことには期待したいですね。「何年も前からうちではやってたよ、でもメジャーに移ってちょっと寂しいんだ」みたいなこと言ってみたいですね(笑)。そういう意味でもピーター・ストリックランド監督には期待しています!
■開催情報
『未体験ゾーンの映画たち 2022』
ヒューマントラストシネマ渋谷にて、1月7日(金)〜2月24日(木)開催
シネ・リーブル梅田にて、2月11日(金)より開催
鑑賞料金:1400円(毎週水曜、毎月1日は1200円均一)、リピーター割引あり、TCG会員割引あり
公式サイト:https://ttcg.jp/movie/0816900.html